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3-さらに[悟り…たくない]1
SAYAが参加している作品がリリースされると美奈姉さんに教えてもらえるようになった。
乙女ゲームからBLゲームになってシチュエーションボイス……。
なんだか有家川はミーハーだ。
そして可愛い系が多い。
萌えられたいタイプなんだろうか?
そして…実際……。
可愛くて……。
萌える……。
まずい。
萌える。
俺はそれまでよく分からなかった『萌える』という感覚を、有家川の声で会得 してしまった。
ボイスアプリの『君の部屋で話そ!』を毎日のように聞いてしまっている。
そしてその現場を妹の千草に見られ、誤摩化そうとして「同級生だ」と、いらぬ言い訳をしてしまった。
しかし、すでに妹は美奈姉さんから聞いて、俺がSAYAのファンだと知っていたらしい。
結果、クラスの集合写真で有家川がどれなのかを教えるハメになってしまった。
写真の有家川のワイルドっぷりと、アプリの弟系キャラのギャップに妹は大喜びだ。
そして、千草経由で美奈姉さんにまでSAYAがクラスメイトだということがバレてしまった。
俺は、この二人に秘密を作ることができないかもしれない。
そう思った。
◇
美奈姉さんが自作しているもの以外で、俺に持ってくる話がBLばかりになってきた。
メインキャストをやることも多くなっていく。
しかもだんだんエロくなる。
BLに少しづつ慣らされている自覚はあった。
主人公を襲うモブやワケの分からない変態キャラよりは、俺様な攻めキャラのほうがいい……なんて思ってしまうくらいに。
これはさすがに……と、及び腰になるくらいエロいシナリオの時は、依頼時に『頼んでいた声優が音信不通になったので、どうしても急ぎで』などと、断りにくい理由がついてくる。
エロい役のために、ネットで女性の声優さんのエロ音声のサンプルを聞いて勉強をするようになった。
裏声や鼻声、チュパ音などさまざまなテクニックを吸収する。
しかしエロい喘ぎを聞けば聞くほど、空しさを感じた。
見ず知らずの人が人手不足で困っているからって、なぜ俺がこんなことまでしなきゃいけないんだ。
そうは思っても、いい加減な録音をして、お粗末なものが採用されてしまうのも嫌だった。
女の子が『チュプチュプ…あはんあはん……』とやってるサンプルを聞いて、ああ、なるほど、じゃあこういう音を出すにはどうすれば……なんて真剣に考えている俺。
生々しくエロい音源を聞いてるのに、マンガ雑誌の水着グラビア程度の興奮すらない。
男を興奮させるために一生懸命アハンアハンとやってくれているにも関わらず、まったく反応しないことに申し訳なさを感じた。
なんだか思春期の青少年として終わってる気がする。
BLのR18音声サンプルも参考にしてみたけど、精神的にキツかった。
ネット声優ではなく、プロの声優のものはまだ大丈夫だったが、ねちっこい声を出されると背筋がゾワゾワと気持ち悪くなって聞いていられない。
元々そんなに性欲というものを感じたことがなかったが、コレをやり始めてから、少ない性欲がすっかり枯れ果ててしまったようだ。
エロにエロを感じない。
自分の心身の健やかな成長が阻害されないか、かなり心配だ。
エロいBLゲームの録音がはかどらず、少し焦っていたときだ。
美奈姉さんからメッセージが来た。
知り合いのふーにゃんさんが、まだ企画段階ではあるけれどR-18 BLゲームを考えているとのことだった。
そして、計画がしっかり固まったら『SAYA』に参加交渉をする気でいると教えてくれたのだ。
しかもその企画は、一旦頓挫していたけれど『仮に主人公の声をSAYAにやってもらったら』という話が仲間内で盛り上がり、イメージが広がって再始動につながったらしい。
だからもしSAYAに主役を断られても、チョイ役ででも絶対出てもらうつもりだとふーにゃんさんが張り切っているそうだ。
エロいけど、ロマンティックで可愛らしい世界感のR-18 BL。
『SAYA』が……有家川が受のR-18 BL!!!
何かがスパーンと弾けた。
俺の頭の中では、ファンタジーな世界を背景に、有家川が制服をはだけて寝転び身もだえていた。
思わず口元を手で押さえる。
聞きたい……。
有家川の喘ぎ声を聞きたい。
クラクラするほど興奮していた。
そして、自分の冷静な部分が命じる。
『今だ、この情動をエロの録音にぶつけろ』
ゲームの受けキャラを、有家川に置き換えてイメージする。
有家川が……泣きそうな顔で頬を赤らめ、身をよじる……。
イヤだなんて言っているけど、抵抗する腕には力なんか入ってない。
突き上げられるたびに嬉しそうに鳴く。
そのくせ『こんなの違う』と悦んでる自分を認めようとしない……。
「はぁ…お前の中……すげぇ、きもちイイ…はぁっ…んっほら、お前のコレも気持ち良くってまんねぇって、雫垂らしてビクビク震えてる。ヤラしいカラダだな」
ああ、有家川の声を聞きたい。
どんな風に喘ぐんだろう。
あの声が……。
あの有家川が……。
『いやだ!こんなの……あぁっ……ああっっ!』
大きな目を潤ませて、形のいいあごをそらし、喉をひくつかせる。
本気で抵抗されればば、絶対俺の好きになんてできないはずだ。
なのに、弱々しく抵抗し、怯えたふりをして、言うなりになってしまう有家川。
自ら快感を求めて淫らに尻を振っていたくせに、それを認めようとしない。
キツい顔が羞恥に歪んで…………はぁっ……。
これまで色事に興味がなかったから、エロいシーンも曖昧にしかイメージ出来なかった。
それでも俺には充分すぎた。
まずい、興奮しすぎて息が弾む。
……いや、これもリアルでいいかもしれない。
再生確認……。うん、悪くない。
はぁっっ……自ら足を抱えて広げる……有家川……だなんて。
ともすると興奮しすぎてしまいそうになるのを抑えながら吹き込みを続けた。
そして録音が終わっても、しばらく俺の興奮は続いた。
この時から俺に、有家川の喘ぎを聞いてみたい……という想いが、つきまとって離れなくなってしまったのだ。
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