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3-さらに[悟り…たくない]2

◇ 二年に進級した。 自分の心情を反映しているのか、暖かみを増す薫風や、霞んだ空や、鮮やかに色を持ち始める山々などが、いつもよりも生き生きと感じられる。 しかし学校に近づけば、そんな自然の輝きも霞んでしまうほど、俺は浮かれてしまうのだ。 また有家川と同じクラスになった。 誰かと同じクラスになって嬉しく思うなんて初めてのことだった。 心に染み入る春の情景よりも、耳になじんだ有家川の笑い声が俺の胸を温めてくれる。 盛りの遅いボタン桜も散り始め、みんながクラスになじんできた頃、例のR-18 BLゲームがキャスティング段階に入ったと知らせがあった。 有家川はメールで色々質問したりと警戒していたらしいが、結局引き受けたそうだ。 俺にも出演依頼があった。 本来ならあまり歓迎できないエロBLだが、もちろん二つ返事で承諾。 むしろこちらから出演を頼み込みたいくらいだった。 新しいクラスに馴染むことなど、もうどうでもいい。 別に友だち100人作りたいわけでもない。 やる気のない運動会や、有家川と別コースを選択してしまった修学旅行よりも、いかに格好良く攻めキャラを演じるかに俺の興味は行っていた。 すぐにシナリオが送られてきた。 相手が有家川だと思うと、読んでるうちに勝手に役に入り込んでしまう。 俺はがっちりとキャラを作り込んだ。 前回エロいBLをした時に、あれだけはかどらなかったのがウソのようだ。 早く録りたくて仕方がない。 俺の役は生真面目で情熱的なキャラの『オーリオ』。 有家川演じる『サリュ』を守り、支えて、慕われ、むさぼる。 声に出して読んで気付いた。 『サリュ』という名前は『SAYA』に似せている。 録音していても、俺が演じる『オーリオ』がサリュと親密になっていくに従って、演技に感情が乗りすぎてしまいそうになる。 「サリュ……」 そう呼びながら、頭では、サヤ…マサヤ…。と有家川を想像していた。 サリュが大切で、愛おしくてたまらない。 そんな『オーリオ』の感情が、俺を通してまっすぐ有家川に向かっていく。 録音をすすめていたある日、制作のふーにゃんさんからメールが来た。 エロのシーンを軽いデータで先にいくつか貰えないかという内容だった。 そんな催促をされたことがないので何故かと問い合わせをすれば、SAYAから『R-18は初めてだから相手の雰囲気を参考にしたい』とメールが来たということだった。 そして、送って欲しいキャストとして『山田(やまだ)(りき)』の名前をあげたらしい。 ………俺は震えた。 有家川が……サヤが『山田力』を……俺を認識している。 そして、俺の攻声を聞きたいと思っている。 目がチカチカするくらい興奮した。 俺は予定を変更し、すぐにシーンを選んで録音に取りかかった。 けど、ダメだった。 興奮しすぎて声が震える。 前回の比じゃなかった。 エロだから多少息が荒くてもかまわないだろうが、やはり興奮もシーンに合わせた雰囲気のうちに納まらなければいけない。 こんなノリでは『狂おしいまでの愛』は表現できない。 息を整えながら、台本を読み込み、役に没入して録音を再開した。 まだ声が震えている。けど、許容範囲だろう。 俺の息一つ一つで想いが伝わっていけばいい。 今の俺のできる範囲内で、感情の高ぶりを演技でコントロールした音録りができたと思う。 念のため一日寝かせて確認し、データを送った。 有家川が……SAYAがこれを聞くんだ。 緊張した。 データを送り終わった俺は、認めた。 気がつかないフリをするにも限界がある。 本当は今回ではなく、前にBLを録音したときから気づいていた。 有家川を想像して録った、あのときも俺の身体は反応していた。 そして今回も同じ状態だ。誤摩化しようがない。 これが性の目覚めと言うやつなのか。 俺も一般の男子と同じように、小学校の頃女性の身体を意識し始め、性を認識した。 いうなれば気づきだ。 そのほんの数年後、参考にとエロ声のサンプルを散々聴いた結果、十代半ばにしてすっかり性欲が枯れ果ててしまったと情けなく思っていた。 けれど、今、有家川の痴態を想像して、心身ともに興奮を覚えている。 有家川に、希薄だった性欲を奮い立たされてしまった……。 男に欲情することに、何ともいえない罪悪感を感じる。 いくら俺がSAYAのファンだからといって……。 有家川を想像の中で(けが)すことを、申し訳なく思った。 しかし、前回は興奮を知るために、それがどうしても必要だった。 そして今回は、有家川が相手役なのだから、痴態を想像してしまうのは仕方のないことのような気がする。 でも、有家川は役を貰ってやっているだけで、リアルな自分を想像ででも穢されたいとは思っていないはずだ。 とはいえ、俺はリアルな有家川を知っているから、想像を止めるのは難しい。 わからない……。 堂々巡りだ。 とりあえず、俺は一つの結論をもって自分を納得させた。 『SAYAが……有家川が可愛いのが悪い』 以後、思考を放棄したい場合は、こんな理由にもならない言い訳であらゆることを納得することにした。 俺は、少しズルイ大人に近づいてしまった。

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