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4-まさかの[天国で地獄]2

◇ 現実の有家川をイヤらしい目で見るのを自制する代わりに、妄想への自制心が薄らいできた俺にとって、大きな試練ともいえる授業があった。 プールだ。 無理だ。 見ないでいれるわけがない。 一瞬だって有家川が視界に入れば、勝手に目がピント調整をしようとする。 そこまで視力が悪くないとはいえ、メガネを外せばやはり人の判別が少し困難になる。 なのになぜか有家川だけは他の人より判別ができてしまう。 メガネがないのに加えて、夏の燦々(さんさん)と照りつける太陽が水面に反射してまぶしいため、俺はしばしば目をすがめて、焦点の合わない目つきになる。 その状態なら、少しおかしなところに視線が行っていても不審がられないのではないか……。 バレずに、ガン見できる……。 いや、あまりじっくり見ればさすがにおかしいと思われるだろうが、少しなら大丈夫のはずだ。 ずっと自分にそんな言い訳をしながら、プールサイドの有家川をチラ見していた。 2メートルほど先で沢木たちと並んで話している。 このくらいの距離なら、メガネがなくとも見える。 有家川は肩幅が広く、腹が薄い。 細いけれど、腰にはしっかりと筋肉がついている。 背筋は伸びているのに、背の低い友だちと話すせいでいつも首だけ少し前に出ている。 足もそこそこ筋肉がついていて綺麗だ。 色素が薄いから、すね毛もそう目立たない。 もし身体が完全に発達しても、そんなに毛深くはならなさそうだ。 そして……。 あれ? 俺は違和感を感じた。 脳内補正が利いているんだろうか……。 なんだか、前に着替えを盗み見てしまったときと比べて……。 乳首が………エロい。 おもわず手で口元を押さえた。 そうしないと、自分の中から何かが飛び出してきそうな気がした。 見た目はそんなに変わっていないのに、なんだか印象が違う。 着替えを盗み見たのは、ほんの二ヶ月前だ。 あの頃は、言うなれば花のつぼみのようで、柔らかいのに固い……といった印象だった。 今もまだ固さ残るが、熟しはじめた実のような…そう、あの頃よりぷっくりとした印象だ。 あくまで印象だけで、実際にサイズが変わったわけではないのだろう。 でもなんだか色も少し鮮やか……というか、生き生きとした色味で。 ……まるでおのれの存在意義を知ったかのような……。 俺の『妄想の中の有家川』に、現実の有家川が近づいたみたいだ。 これ以上はダメだ。 これ以上見るとロクでもない想像をしてしまいそうだ。 煩悩を断ち切るように、無理矢理視線を引きはがす。 けれど、視界に偶然有家川が入るたび、魅惑のレッドスポットに俺の目線が吸い寄せられてしまう。 授業が進む中、ちらりとでも有家川が視界に入れば、俺の眼球は秘めた力を発揮し像を結ぶ。 プールサイドのスタンドから立ち上がった有家川の、ピッタリとした水着の尻と、座っていたコンクリートに残る二つの丸い水の染みに釘付けになった。 『何をくだらないことに反応してるんだ』と自分をいましめても、すぐに割れ目に水着が軽く食い込んでいるのに気づき目を剥く。 そして少し動いただけで、その食い込みがなくなってしまうということを哀しく思った。 水滴が光を反射する。 有家川の乳首の上で。 まるで、ニップルアクセでもつけているみたいだ……。 ぼやけた視界が妄想を助長する。 見えづらくて助かったと思っていたのに逆効果だ。 悶々とした欲望は運動で発散できると聞いたことがあった。 幸い今は体育の授業中だ。 五十メートルをクロールで泳ぐ。水泳は得意でも不得意でもない。 激しく息をしながらプールからあがろうとしたとき、目の前に足首があった。 『水から上がろうとした時に目の前に誰かの足がある』なんて良くあることだ。 こんなアングルは、プールでは当たり前のように何度も遭遇する。 けど、それが有家川だと、足を伝う水さえ何故かイヤらしく見えた。 ほぼ真下、至近距離から有家川の身体を見上げれば、水着に覆われながらも存在を示す膨らみが、まるで誘っているように感じられた。 俺の目が勝手にピント調整を始める。 水着の魅惑的で柔らかそうな膨らみ。そこからしみ出した水滴が、垂れそうにきらめいているさまが、どうにもエロティックに見えてしかたがない。 渇きを癒す……尊きポーション。 気をつけなければ。 余計なことは考えるな。 チラ見くらいなら大丈夫だが、妄想が加わると身体が反応してしまうリスクも高まる。 それはさすがにマズイ。 夏の抜けるような青い空を見上げた。 太陽がまぶしい。 目がくらんで、視界が真っ白になる。 これで、有家川を見なくて済む。 そう思ったのに、有家川の残像は俺の網膜に残ったままだった。 プールの授業の最後10分間は自由時間だ。 泳いでもいいし、好きに遊んでもいい。 有家川は当然のように牟田(むた)沢木(さわき)と騒いでいた。 しかし、牟田………。 思わずキッと睨みつけて、すぐに目をそらした。 見てはいけない……。 見てはいけないとは思うけれど、ついつい目が追ってしまう。 あのちびっ子が、プールの中で有家川の首にぶら下がっていた。 当たり前のように有家川の胸に顔を寄せている。 イヤらしく熟れた有家川の乳首が牟田の顔にもふれる。 それがまるで当然のことのように、二人とも全く気にしていない。 有家川や沢木にくっついて、水中で引かせて泳ぎ楽しんでいるようだが……。 なぜ、沢木は背中にくっつくのに、有家川だと前なのか。 有家川の乳首の印象が変わったことと、牟田との間に何か因果関係でもあるのではないか。 一瞬そんなことが頭をよぎる。 けれど、無理矢理にその疑惑を頭から排除した。 牟田(むた)沢木(さわき)が簡単にふれられる有家川の肌が、俺にはとんでもなく遠い。 二年の体育の授業でプールは三回あった。 この時間は俺にとって天国であり、地獄だった。

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