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6-ついに[衝撃]1
また、有家川が俺を翻弄する。
チラリと視線を寄越して、すぐにそらしたり、そうかと思えば数日の間、異様なまでにこちらを意識して見ないようにしたり。
どういうサインなのかはわからない。
でも、とにかく意識しているのだけは間違いない。
俺ももう、煮詰まりすぎてどうしていいかわからない。
ただ、とにかく、有家川と二人きりで話したい。
なのに、有家川のまわりには常に誰かが居て一人になることがない。
二人きりで話したい気持ちは高まり、いざ二人きりになれたときのためにと、予備教室、教科準備室、使われていない部室など、校内のあまり人が寄り付かない場所をどんどん覚えていく。
けれど、その情報が役立ちそうな気配はない。
俺の中で気持ちが焦げ付く寸前、二進も 三進 もいかなくて『あきらめ』が頭をよぎり始めた頃、それは起こった。
『んんっ…はぁっ!いいっ…ぁっスキっっ!』
艶 かしい声に、休み時間の教室が静まり返る。
一転してドッとざわついた。
ギギギ……と錆び付いた機械のように首を動かし、声がした方を見た。
けど、見なくったってわかる。
有家川が牟田や沢木に囲まれ、ぎゃあぎゃあ騒がれながらスマホを操作するような動きを見せる。
……アレに音源を入れてたのか!?
あんな声を……スマホに????
しかも…なんで再生……。
騒ぐ沢木達を振り切って、有家川が教室を出た。
身体が勝手に動いていた。
有家川について俺も廊下に出る。
何をどうしようなどと考えていたわけじゃない。
いや、考えられなかった。
突然聞こえてきた『SAYA』の声に、俺は完全に舞い上がっていた。
有家川なりの俺へのカミングアウトだろうかとか、俺があまりにも有家川の意図を汲めないから、こんなデカイ爆弾を落としたんだろうかとか……。
後になってそんな風に考えたけど、とにかくこのときは、花の蜜に誘われるミツバチのようにフラフラと有家川の背中に吸い寄せられていただけだった。
屋上に続く階段の踊り場に一人いる有家川に声をかけた。
有家川が『SAYA』である確証を得た上に、二人きり。
そして、有家川と会話らしい会話をしたのも初めてだ。
一度に全ての願いが叶った瞬間だった。
会話ができたのはわずかな時間だ。
有家川にはすぐに立ち去られてしまったけど、ほんとにやっと、やっと二人きりで話せたんだ。
「さっきの声、サヤちゃんだろ?間違いない」
俺がそう言ったら、壁にもたれたまま、
「……さっきのは……オレの…オンナの声だ。ちょっと聴いただけで何がわかる」
なんて低い声で答える。
そんなの、ここで認めるのが有家川にとって都合が悪いから言っただけの、単なる誤摩化しだってわかってる。
けど……。
「サヤちゃん、有家川の『オンナ』なのか?」
内心の喜びを抑え、ついつい聞いてしまった。
有家川の『オンナ』な部分がサヤちゃん…なのかっっ。
ついついそんな風に考えてしまう。
いや、そういう意味じゃない。
堪えろ。萌えるな、俺。
はしゃぎそうになってしまうのを、必死でこらえていた。
けど、浮かれていたのは確かだ。
ああいった録音があればもっと聞かせて欲しいと言ったのは失敗だったかもしれない。
ちょっとだけ怒らせてしまったし、授業中に見せるような可愛い顔もしてくれなかった。
けど、これをきっかけに話しかけ続ければ、いつかは『サヤちゃん』に会えるかもしれない。
学校での有家川じゃなく……可愛い『サヤちゃん』。
二人きりのときに、キャラ声で話しかけられたりなんかしたら、俺は萌え死んでしまうかもしれない。
ドン引きされないように気をつけないと……。
そして、このときから俺は『サヤちゃん』に会うべく、有家川に積極的に話しかけるようになった。
自分でも頑張っていると思う。
朝と帰りに挨拶をして、それ以外に最低でも一回は話しかけている。
最初は普通に話しかけた。
でも、あっさりスルーされた。
今まで俺が話しかけたことなんかなかったから、自分に話しかけられたということが分からなかったんだろう。
有家川に話しかけているのだとわかるよう、耳元で『おはよう』と言ってみたら、ビクっと肩を跳ねさせた。
驚かせたかな。そう思っていたら、振り返った有家川の顔が……なんだかエロかった。
耳が弱いんだろうか。
自分の反応を恥じて焦っているようだ。
可愛い……。
朝からとんでもない顔をしてくれる。
その時の反応をバツが悪く思ったせいだろう。
少し避けられるようになってしまった。
けど、あんな顔を見てしまったら、また同じような反応を見たくなるのが人情だ。
避けられているのを承知で、俺は有家川の耳元で話しかけ続けた。
そして、二回に一回は可愛い顔を見せてくれる。
同じクラスだとはいえ、俺を本気で避けようと思えば避けられる。
そして、耳元で話しかけられるのが本当に嫌なら、もっと必死でよけるだろう。
これが、いわゆる駆け引きというやつなんだろうか。
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