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11-終話:これからも[俺だけに]1
通学中はいつも車窓の風景に心を遊ばせていた俺が、今日はサヤちゃんで頭がいっぱいになっている。
山のきらめきを見ながら、思い浮かぶのは汗に濡れながらも蜜色に輝くサヤちゃんの髪。
どうにも浮かれている。
土曜日、サヤちゃんの家へ行った時の事が、何度も何度も、入れ替わり立ち代わり思い浮かんでしまう。
その日の俺は気合が入っていた。
とにかく、好印象を持ってもらって、これからも二人で会いたいと思ってもらいたい。
そのためには、今度のゲームの役にちょっと迷いのあるサヤちゃんに的確な助言をして、いいとこを見せなければ。
そう思っていた。
なのに、何でだろう。
なんでこうなったのか、よくわからない。
サヤちゃんはずっと恥ずかしがってた。
そしてとにかく、サヤちゃんが可愛くて、サヤちゃんがエロくて、サヤちゃんが気持ちよかった。
うん……。
なんでだ?
あれだけ二人で会うのは恥ずかしいなんて言ってたのに。
だから、不快な思いをさせないようにって、気をつけてたのに。
そんな気遣いなんかおかまいなしに、恥ずかしがりながらどんどん俺を煽って、結局セックスまでしてしまった。
デロンデロンに甘えた声で、
「まやぁ……だいすきぃ」
とか言われたら、止まれないだろ。
可愛すぎるんだよ。
そのくせ、また急に恥ずかしがって躊躇してみたり。
そうなると勢いづいてしまってる俺は、強引にでも深くふれ合いたくなってしまう。
俺はサヤちゃんの一挙手一投足に翻弄されっぱなしだ。
優しくしたくて、だけど勢いのままにサヤちゃんと深く深く交わりたくて……。
生で見るサヤちゃんの可愛さ、エロさは、想像を軽く上回ってくるんだろう……と、予想はしていた。
でも生々しい人肌の温もりやしっとりとした感触なんて、全く想像できていなかった。
興奮したサヤちゃんの汗ばんだ肌。
そしてサヤちゃんの薫りが俺の胸を満たす。
しなやかな筋肉が互いの隙間を埋めあい、ふれあう肌は吸い付くようで、どちらの熱ともわからぬほど混じり、このまま本当に一つになってしまえるんじゃないかと思った。
瞬きをする。薫りがする。味だってある。
俺がサヤちゃんにふれるだけじゃなく、サヤちゃんも俺にふれてくる……。
当たり前の事にほど、驚きと感動があった。
俺は抱擁すらほとんど経験がないから、素肌をなでるサヤちゃんの手に、自分が身を震わせる事になるなんて予想できるわけがない。
俺に抱きつくサヤちゃんの柔らかな髪にサラリと胸をなでられゾクゾクとし、顔を寄せればサヤちゃんの長いまつ毛も俺の頬をくすぐってくる。
その細やかな感触にサヤちゃんの可愛らしさを感じ、愛おしくてたまらなくなった。
念願のサヤちゃんとのふれ合いは、そんな小さな発見や大きな感動が積み重なりすぎて、結果あまりよく覚えていない。
だからこそ、覚えていられた瞬間は、何度も何度も……繰り返し思い出す。
『ああっ……んーっんーっ!ま、真矢っ。なんで?んぁ……はぁんん!きもちいいっ』
色っぽ過ぎる声に、冷静を装って『そう。うれしいな』と、まるで俺がサヤちゃんを気持ち良くさせているかのように返事をしてしまった。
けど実際は俺がグッと押し込み過ぎると、サヤちゃんの腰がフッと引かれ、無意識のうちに気持ち良くなるよう調整してくれていただけだ。
サヤちゃんの長い指が自らの柔らかな内壁に覚えこませていった快楽だから、気持ちよくなるポイントもサヤちゃん自身がよくわかってる。
けど遠く離れ、通話しながら指をソコに含んでいた時でさえ、俺が快感を引き出していると勘違いしていたサヤちゃんだ。互いの熱を分け合っている状況ならなおさら、俺が狙って快感を与えていると思い込んでくれた。
恋愛初心者の俺には、とてもありがたい勘違い。
なんの計算もなくサヤちゃんの上気した肌に手を滑らせるだけで、綺麗な顔をヒクつかせ弾けるような嬌声を返してくれる。
そんなサヤちゃんが愛おしくて、このまま解け合ってしまえれば……と強く願った。
嬉しくて、幸せで、気持ち良くて……。
感情が暴れて苦しくて、泣き出しそうだった。
しかも、俺のことを大好きだって……。
いつかサヤちゃんに好きになってもらえたらというのが、俺の最大の目標だったのに、家に行っただけで、こんなにあっさりと。
『派手で賑やかで目立つ有家川』は、同じクラスだけどどこか遠い存在だった。
そして『SAYA』を意識しだした時ですら、こんなことになるなんて思いもしなかった。
授業中に目が合うたび『もしかしたら、俺の声を好きだと思ってくれてるんじゃないか』と想像し続けていた。
なんの取り柄もない俺の唯一の武器は声だから、サヤちゃんと通話してる時もかなり話し方は意識していたし、サヤちゃんが俺の声にうっとりしてるのを感ると、心の中で小さくガッツポーズしていた。
そして、ついにサヤちゃんが俺の声を好きだと言ってくれた。
今までの努力が報われた瞬間だ。
俺は心の中で特大ガッツポーズをとりながらも、
「だってぇ……。まやぁ……だいすきぃ」
という、脳みそがトロけ出してしまってるんじゃないか?ってくらい甘いサヤちゃんの声にメロメロになってしまった。
俺の唯一の取り柄である声も、やっぱりサヤちゃんの天賦の才には敵わない。
俺への気持ちを解放してくれたサヤちゃんの口からは、さらに信じられない言葉が次々と飛び出してきた。
「オレは、真矢のモノだよ。真矢の好きにされたい」
そう言われた瞬間、頭が沸騰して『萌え死んでしまうかもしれない』……と本気で思った。
さらに、事後の甘い甘い疲れの中、俺のことがカッコ良く見えるだとか、キスが上手いとか、男が初めてなのに気持ちよくなってしまったんだとか……。
交わりの記憶は曖昧でも、サヤちゃんのピロートークは強烈に記憶に焼き付いた。
今まで誰かにこんなに好意を向けられたことなんか無い。
トロトロなサヤちゃんの表情を見ると、ウソを言ってるわけじゃないだろう……と、思う反面、雰囲気に流されて言ってるだけなんじゃ……と、疑う自分もいる。
けど、もしそれが雰囲気に流されしてしまったお調子発言だったとしても、その場限りの言葉にさせるわけにはいかない。
雰囲気に流されたのなら、同じように甘い空気を何度だって作り出す。
そうすれば、それは本当のことになるはずだ。
そして、それよりさらに、驚きだったのは……。
「もう真矢とつき合ってると思ってた!」
って。
……………なんでだ?
俺としては『まずは再度告白、そして恋人になって欲しいと伝えて、いつかサヤちゃんと』……と、長期計画で考えてたのに。
ほんとうに、いつの間に?
振り返ってみても、いつのタイミングで恋人ってことになったのかよくわからない。
家に行く前日に、学校の屋上前の踊り場でキスした時は、確かにちょっと恋人っぽかった。
あのときもうすでにサヤちゃんの中では、恋人になっていたのかもしれない。
サヤちゃんは自分でも何を言っているのかわかってない時があるようで、俺には言動を予見するのが難しい。
だから、細かく追求すると、サヤちゃんなりの俺にはよくわからない理由で、『やっぱり違った』などと言い出すことにもなりかねない。
俺自身が本当に恋人同士になれたんだと確信が持てるまで、いつ恋人になったのかという件はふれずにいたほうがいい。
まだ不安は残るけど、恋人になったんだ。
サヤちゃんと恋人……。
ウソみたいだ。
前言撤回されないよう、恋人ヅラして既成事実を積み上げなければ。
ちょっと強引に。だけど、優しく。サヤちゃんを甘く包んで、俺が側にいるのを当たり前と思ってくれるように。
俺は揺れる窓の外に流れる木々を見ながら、己にそう強く言い聞かせていた。が、すぐに、のぼせ、クシャリと歪んだサヤちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。
『あぁ…あアっ!ンァ……真矢ぁ』
思考がサヤちゃんの声で埋まる。
『イイっっ!真矢っ信じられないくらいイイっっ』
…………。
頬が、ヒクつく。
にやけるな、俺。
サヤちゃんが、俺に何を求めているのか、それを敏感に察知して、サヤちゃんがいつまでも俺を想ってくれるよう頑張らないといけないのに……。
『ああ……動いて真矢の好きにして。中はもうすっかり真矢になじんだから』
………はぁぁ。
いや、ソレばっかり思い出すな、俺。そうじゃなくて、サヤちゃんが俺に何を求め……。
ナニを……。
いや、違う。
……思考がまとまらない。
けど……。
『好きぃっっ真矢が好きっっ。好きだからっ。すきっ……す…んんンァ』
……うん。
全部、サヤちゃんが可愛いのが悪い。
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