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番外編:窓の月を見ていた1
番外編なので時系列が前後します。
本編の最終話より前のお話。
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今日、やっとサヤちゃんのお母さんに挨拶をすることができた。
お母さんの仕事が忙しいため、あまり家で二人で過ごす時間は持てていないようだ。
にも関わらず、お母さんが休みで家にいれば、今度はサヤちゃんがどこかへ出かけてしまう。
一人でいるのが寂しいくせに、お母さんがいれば避けてしまうというのは、俺たちくらいの年頃ならしょうがないことなのかもしれない。
当然のことながら、お母さんもサヤちゃんが寂しがりなのをよく知っていて、心配に思っているようだ。
サヤちゃんには、俺を気遣うように、
「あんな真面目そうな子に、変な遊びとか教えちゃダメよ?」
なんて言っていたが、サヤちゃんが自分の部屋に行けば俺に
「時々友だちが来ることもあったけど、きちんと紹介してくれるなんて初めてなの。聖夜 と仲良くしてくれてありがとう」
と、嬉しそうに言ってくれた。
お母さんもやはり優しくて照れ屋なんだろう。
サヤちゃんを大切に思っているのがとても伝わってくる。
なので、俺もサヤちゃんをとても大切に思っているということを伝えたくなった。
「俺、サヤちゃんが大好きなんです。いつまでも一緒にいたいと思っています」
自然と顔が微笑んだ。
つられたようにお母さんもニコリと微笑んでくれる。
それから一拍おいて、
「……そうなの?」
と聞いてきた。
「はい。可能な限り一緒にいれたらと思います」
俺の言葉に、ちょっと考えるような表情を交えながらも、
「仲がいいのはいいことよね。うん」
と、再び微笑んだ。
それからお母さんが外出するまでの間、三人で会話を楽しんだ。
サヤちゃんの小さな頃の話をするお母さんに、サヤちゃんが怒る。
親の前ではどうしても、ちょっと子供っぽくなってしまうようだ。
こんな微笑ましいやりとりをするサヤちゃんを見られたことが嬉しくて仕方がない。
出がけにお母さんがサヤちゃんに、
「真矢くんと仲良くするのよ」
と、声をかけると、サヤちゃんが赤くなって、
「あったりまえだろっっ……」
モゴモゴと濁すように返事をした。
それを見たお母さんは、ちょっと困ったように眉毛を八の字にしてから俺に、
「聖夜をよろしくね」
と、改めて声をかけた。
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」
俺の返事にもやっぱり困ったように眉毛を八の字にしてサヤちゃんのお母さんは出かけて行った。
自分の母親を俺に会わせたのが恥ずかしかったんだろう。
そのあとサヤちゃんは少しぶっきらぼうに甘えてきた。
そんな、ちょっと不器用なところも俺には可愛く見える。
サヤちゃんの部屋で二人っきりになれば、さらに口調はふて腐れ、態度は甘さを増す。
ベッドの上に並んで座って話しながら、サヤちゃんは俺の腕に自らの腕をからめて、肩に頭をもたれかけてきた。
話題は自然とサヤちゃんの子供の頃のことになった。
両親が音楽好きだから、自分も小さな頃からよく歌っていたとか、ドラムの方が好きだったのになぜか上達せず、ギターはすぐに弾けるようになっただとか懐かしそうに話す。
サヤちゃんの歌を聴いてみたいと言ったけど、アカペラは嫌だと恥ずかしがって歌ってくれなかった。
そのうちカラオケで……なんてお茶を濁す。
「まあ、歌ってもらえなくても、俺はサヤちゃんの声が聞ければなんでもいいけどね」
ふっと笑ってサヤちゃんの唇を指でなぞる。
すると、サヤちゃんがかぁっっと真っ赤になった。
そしてソワソワと落ち着かなくなる。
「サヤちゃん、どうしたの?」
「……どうしたのって。……真矢はイジワルだ」
意地悪なんて言った覚えはない。
「……?サヤちゃん、俺、気にさわるようなことしたかな?」
「……もうっ」
腹立たしげに、唇に触れていた俺の指をパクリとくわえた。
噛みつくような勢いだったのに、舌を絡め、甘えるように舐めしゃぶる。
……うっっ。可愛い。
けど、わけが分からない。
「ふむっ……ん」
指でサヤちゃんの舌をなでると、鼻を鳴らしながらうっとりとした表情を見せてくれる。
「ふ…むちゅ……はぁ……」
すがりつき、夢中で指をしゃぶってくるサヤちゃんを見ていて、俺はようやく気付いた。
『まあ、歌ってもらえなくても、俺はサヤちゃんの声が聞ければなんでもいいけどね』と言ったのを、『歌声の代わりに喘ぎ声を聞かせてくれ』という意味だと思ったんだろう。
もちろん、サヤちゃんが喘ぎ声を聞かせてくれるというならいくらでも聞きたい。
このまま勘違いに乗らせてもらうことにした。
「可愛いお口に俺の指が入ってたら、色っぽいサヤちゃんの声が聴こえにくくなっちゃうな」
ぞろりと敏感な粘膜をなで上げながら指を抜いて、サヤちゃんの唇を舌でゆっくりと舐めた。
ふれるかふれないか、繊細に舌で唇をくすぐる。
くしゃみでも我慢するようなしかめ顔が可愛い。
そっと、そっと。かすかな刺激に舌先も甘く痺れる。
するとサヤちゃんがじれた。
「んぁ…真矢……。やだ。ちゅ……して?」
ああ、もう。
鋭い目をうるっとさせて、すがるように色っぽくかすれた声で『ちゅ……して?』って。
しかも、自分からキスせずに俺におねだり……。
顔に似合わぬあざといセリフを言っておきながら、それを猛烈に恥ずかしがる姿も愛らしすぎる。
俺を萌え狂わせたいのか?
「はぁ……『ちゅ』ね?」
求めに応じてキスをする。
啄むように浅く口づけて、それからだんだんと深くなり、柔らかな口内を舌でなぞった。
「ん…はぁ…はぁ…んふ」
サヤちゃんはすぐにトロンとなり、子猫のような鼻からぬける声を漏らしはじめる。
絡ませあう舌に呼応するように俺の背中をなでるサヤちゃんの手がせわしない。
「ん……はぁ……ふ…んん」
俺の耳は容赦なくサヤちゃんの喘ぎ混じりの吐息にヤられ、求めるように動く手にも欲情を高められる。
けど、俺の興奮にはほんのりと緊張も混じっていた。
サヤちゃんとつき合いはじめて、二十日とちょっと。
毎日のようにイチャイチャはしてるけど、それ以上の事となると俺はまだ全く慣れていなかった。
どうしても、嫌な思いをさせたらどうしよう……なんて、ぼんやりとした不安がつきまとい、サヤちゃんみたいに最初っから我を忘れて夢中になるのは難しい。
それでも大好きなサヤちゃんのこんな艶めいた顔を見てしまったら、ぼんやりとした不安ごときで止まれるわけはない。
サヤちゃんのTシャツをたくし上げながら、少し強引に押し倒す。
サヤちゃんはキスに夢中で、まるで自分が押し倒されたことにすら気付いてないかのようだ。
俺の髪はサヤちゃんの手にかき乱され、背中をじっとりとなで上げられる。
「まや…まやっ……」
俺の名前を呼ぶ、甘えきった声。
……可愛い。
ぐっと抱きしめ、首筋に唇を這わせる。
「ん……」
俺はこれまでに、サヤちゃんが首筋や耳のあたりにやさしく、くすぐるようにキスされるのが好きだということを学習した。
眉間やまぶた、アゴにも軽く唇を滑らせると、ゆるりと微笑んで甘えてくれる。
鎖骨や肩のあたりは、強めにキスされるのを好む。
さらに強く、キスマークが付くくらいに吸えば、甘いため息をもらし、その手でまた俺の髪をかき乱す。
たくましい腰や背中をなでる手を少しずつ下へ。這わす唇も同時に下りていく。
しっかりとした胸板も痕が残るほど吸えば、俺の名前を呼びながら恥ずかしそうに、だけど甘えたように手足を絡めてくる。
「かわいい……」
無意識にこぼれた言葉にサヤちゃんが反応する。
「かわいくなんか……ないだろ。こんな……胸ナイし」
「……え?充分たくましいし、胸がないことないだろ?」
「え……?それは……いや、うん?」
なんだか微妙な返事だな。
キレイな胸だし、なによりも反応が良くて最高なのに。
乳首を口に含み、軽く舌で弾くと、サヤちゃんが期待に満ちたため息をもらした。
唇で噛むように刺激しながら、反対側も指でやさしくこね、摘む。
「んぁん…ん…あふぁ……」
甘い喘ぎが俺の耳をなで、脳をかき混ぜる。
「はぁ……やっぱり、すごく敏感だ。俺、サヤちゃんの胸大好きだ。ほんと……かわいい」
心の声がだだ漏れになってしまった。
ハッとして、ドン引きされていないかとサヤちゃんの様子を伺う。
けど、
「真矢……ホント?ホントに好き?」
真っ赤な顔をし、甘えた声で聞いてくる。
よかった。
引かれるどころかむしろ嬉しそうだ。
「もちろん。大好きだよ」
「そっか。真矢、貧乳好きなんだな。良かった」
…………。
貧乳?
「えっ!? 違う、そうじゃないから」
「えっっ!? じゃ、やっぱ巨乳の方が良いのか?さっきのはウソ?」
「いや、いや、いや、いや、そうじゃなくて。サヤちゃんの身体だから好きなのであって、女性の身体と比べてどうとか、そういうことじゃないよ。そもそも自分が巨乳好きか貧乳好きかとか、考えたことないから」
「えっ、考えたことないのか?変わってるな」
俺は今、サヤちゃんがいるから年相応の性欲を持てているけど、その前までは少ない性欲がすっかり枯れ果ててしまったと嘆いていたくらいだ。
女性の胸の大小なんか気にしたことがない。
そして、今はサヤちゃんの胸以外に目がいかないんだから、巨貧どちらにも興味がない。
……サヤちゃんは巨乳と貧乳どちらが好きなんだろう。
喉まで出かかった言葉をどうにかグッと飲み込んだ。
危ない。今、この状況でサヤちゃんの興味が女性の胸に移ってしまっては非常に困る。
それに巨乳好きなんて言われたら……。まあ、俺も少しは胸筋があるし、肩甲骨の柔軟性にも自信があるから、無理矢理よせれば谷間が作れなくはないかも……。
……いや、やらないけどな。
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