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11-やぁあ…[もうちょっとだけ]
次の日、電話よりも先にデータのURLが送られて来た。
そして『サヤちゃんのはデータ用意できた?』と、催促のメッセージ。
早く桐田の音声を聞きたかったけど、急いで昨日の音声を簡単に編集して送った。
『通話しながら一緒に聴く?』なんてとんでもねぇ提案は却下し、今日は通話しないと決めた。
……はやく桐田の音声を聴きたかったからだ。
正直、受キャラなサリュより攻キャラのオーリオのほうが難しいと思う。
攻めキャラがそんな喘いでちゃおかしい。それでもまさかの10分という大作にオレはおどろいた。
せいぜいいって5分程度かなと思っていたんだ。
まあ、オレも10分ちょっとオーバーくらいになったんだけど。
あんなにイヤだ恥ずかしいって言ってたのに、いざとなると『ここも、あ、これも聴いて欲しい』……なんて思ってしまう。
まずは部屋の電気消して、PCの明かりでヘッドホンを装着。
全身が心臓になったんじゃないかってくらいドキドキしながらファイルを再生した。
最初にゴソゴソ……という何かしているような音が入っていた。
それがすごく生々しい。
「はぁっ……」
思わず息をつく。
こんなの編集でいくらでも消せる。つまり期待を高めるため、わざと残してたんだろう。
き……桐田め。こしゃくなマネしやがって。
ああっ、もう、もうっっ!早く聴かせろよ!
………。
オレのなんとなくなエロ妄想で録った音声とはちがい、桐田の録音はかなり設定がかっちりしていた。
サリュを可愛い愛おしいと持ち上げた後、自分のモノをサリュに握らせ、フェラをさせた後、挿入……という流れだ。
声はゲームのオーリオのときより控えめで喘ぎらしい喘ぎはない。
けど、エロいニチャ音とか布ズレの音がしっかり入ってる。
しかも『はぁ……はぁ……』という吐息がくぐもっているのが鳥肌が立つくらい生々しい。
聴きながら、口が半開きになって、オレまで息がハァハァと上がってしまう。
なんか……セリフの流れも自然だしほんとにオーリオがサリュとしてるみたいだ。
もう、とにかく……興奮する。
体がフラフラして視界が白くなった。
ヘッドホンをつけたまま、ベッドに寝転んで再度聴く。
聴きながらつい股を摺すり合わせてしまったのはしょうがないと思う。
また、再生……。再生……。
ああ…これを聴きながらオナニー我慢してる自分が逆に不思議だ。
不自然だ。
違和感しかない。
勢いよくズボンを下ろして、もうすでにグショグショでヒクついているモノを取り出す。
この状態なら多分すぐにイっちまう。
オーリオという設定だから、桐田のセリフは少し大人びていて優しい。
だから、自分のモノにふれる手もいつもより優しく丁寧だ。
握りこむ手の温もりはオーリオ?それとも……。
少し手を動かしただけで強い快感が走ると同時に、圧倒的な甘さに胸を埋め尽くされた。
「はっはぁ……はぁ」
息がふるえる。
「ん……んぁっっ。ふぅっふっ!ぁあんんん……」
『さわって』
そう言われると、手の中にある欲望の塊がまるで桐田のモノのように感じられて……。
口に含むように促されれば、当たり前のように左手の指を舐めしゃぶっていた。
『ん……気持ちいいよ』
そのセリフに嬉しくなってしまうオレはほんとバカだ。
「んむ……はぁっんむ、んちゅ……」
バカだって思ってるのに、夢中で吸ってしゃぶって、この感触がほんとに桐田に届けばいいのになんて。
『……そろそろいいね?ひとつになろう』
前をこすりながら、オーリオの挿入のセリフにあわせて後ろに指を差し入れる。
「っ……んんぁ!?」
あきらかな快感が走った。
昨日までとは全く違う。ビクン、ジュワンと息の詰まりそうな熱がたまる。
「あうぅん!ヤァ……おしりぃ………ちょっと…ちょっとキたぁ」
『もっと、気持ちよくなればいい。自分を解放して……サリュ』
桐田の声で勝手にセリフを作りあげる。
「ああ……すごい!いいっっ!あくぅん……!」
中はちょっと良くなっただけだけど、もう、前が……イキそうだ。
後ろの快感をもっと探るか、それともイってしまうか迷う。
けど。
「あぁん……オーリォォォ……んくっっっくっイク!」
白濁が溢れ、絞り出すように身体がヒクつくのと同時に、差し込んだ指を後ろの穴が強くかみしめる。
それがまた快感を誘って………。
「…はぁ……キモチィィ……ん」
頭が真っ白になった。
なのに胸には泣き出してしまいそうなくらい甘さがあふれている。
しばしの脱力のあと、後始末。
……はぁ…すごく良かった。
なんか、自分がダメになった気がしないでもないけど。
でも良かった。
ヘッドホンを外してふとスマホを見ると着信の形跡があった。
通話はしねぇって言ったのに……。
手に取って確認をしていると、また着信があった。
つい反射的に応答してしまう。
相手は予想通り桐田だ。
「サヤちゃん。俺の声で随分気持ち良くなっちゃったみたいだね」
開口一番の言葉に息を呑む。
「……な……に言って」
「ははっ。アタリ?」
「んなわけ……」
「それだけ動揺してたらすぐにわかるよ」
明るく言った後、桐田が声をひそめた。
「俺も、サヤちゃんの可愛い声で、頭おかしくなりそうなくらい気持ち良くなったから」
信じられないくらい甘い声で囁きやがる。
なんか……ズルい。
「うー……っっばかっ」
反論を思いつけず、幼稚な言葉を返す。
「っっっ!…はぁ」
息をつめたあと、ため息をつかれてしまった。
「サヤちゃん……今の『ばかっ』はダメだよ」
いくら桐田が可愛いキャラを許してくれているとはいえ、さすがに幼稚すぎたと頬が熱くなる。
「もう、どれだけ俺を夢中にさせたら気が済むんだ」
はっ?えっっ……?
動揺しすぎて一瞬耳が聞こえなくなった。
は……。
あ、ああ、そうか、桐田はSAYAのファンだから……。
ふう……。変な言い方やめてくれよ。
心臓が暴れて、胸に別の生き物でもいるみたいだ。
スマホを持つ手も力が抜けておぼつかない。
目も潤んできたし。
っていうか、そういう意味にとらえるオレがおかしいのか?
「サヤちゃん?」
無言になってしまったオレに桐田が呼びかける。
けど、やっぱりオレは何を言っていいのかわからない。
「……ばかっ……」
とりあえず、口にしてみた。
「ああ……もう!可愛い!可愛いってサヤちゃん!はぁ……もうヤバい。サヤちゃんは、俺がどれだけサヤちゃんのこと好きかって全然わかってないよなぁ」
わかってる。
なんでかしらないけど、かなり熱狂的なファンだ。
お前こそヤメろ。
勘違いしそうになる。
気軽に好きとか可愛いとか言いやがって。
本当にそう思ってるなら、面と向かって言いやがれ。
オレがお前を見下ろして、ギンと睨んでる状態でも、んなこと言えんのか。
言えるわけないよな。
お前が好きなのはあくまで可愛い声したSAYAだ。
下品な声でゲラゲラ笑ってる有家川 聖夜 じゃない。
いつもは嬉しいはずの『可愛い』や『好き』という言葉に何故か苛立った。
「もう、今日はオヤスミ」
ふてくされた調子で、それでも可愛いく作った声を出してしまう。
「んー。サヤちゃん怒っちゃった?」
「怒ってない」
「機嫌なおして?」
「怒ってなーい。オヤスミっ!」
「うーん。怒らせちゃったんだったら、ごめんな?今日は音声ほんとにありがとう。また明日。おやすみ」
「ん。また……明日」
分かってないのはお前の方だ桐田。
たとえ機嫌が悪くなったって、イヤな態度を取ったと思われ嫌われたくなくって、最終的にはちょっと媚びたような声で『また明日』なんて言ってしまうくらいに、オレはお前の……オレは?
………………オレは。
……だから。
……そう、ファンなんだ。
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