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俺の好きな人が不器用すぎて愛しい。六

晤郎が。 楓の世界には、人間は悪い奴と晤郎の二種類しかいなかった。 だから晤郎の名前しか出てこない。 その中に俺が今はいると思うと、両家のお偉い奴ら全員の顔にパイを投げつけて、窒息させてやりたいぐらいだった。 そのままシーツを干して、庭を掃く。 雑草を抜こうかというと、どれが抜いていい草なのかわからないと楓は困っていた。 どれもいらなく見えるんですよね、と困ったように笑っていた。 外の掃除も終えて、昼は炒飯か焼きそばでも作ろうとしていた時に晤郎が帰ってきた。 「あれ、絢斗は?」 「彼なら祖父に会いにドイツでしたっけ? そちらへ向かいましたよ」 少し疲れた様子で、楓に聞こえない声でそういうとお土産を渡していた。 ケーキにクッキー、チョコに紅茶。そして今度はミステリー小説と英字の新聞。 それと推理物のシリーズの探偵ドラマ。 楓にこれでもかと甘いのは、俺と晤郎どちらだろう。 「楓さまの弟くんが株を売ってくださいました」 「は? 雲仙寺の?」 「はい。母親の助言があったようですよ。俺が買うのもいいですが――売り飛ばすのも面白いかなと」 「ふうん」 晤郎の後をついていくと、躊躇なく部屋の中で服を脱ぎだす。 晤郎の背中には、はっきりと爪痕が残っていた。 しがみ付いた痕のような、強い爪痕。 口笛を鳴らすが、睨まれただけだった。 「あと管理ができない山を数個、買ってさしあげました。二束三文ですが」 「すっげ。どうすんの?」 「別に。自分たちにはもう何もないんだと思わせるために、要らないモノから貰ってあげようかなと」 「ふうん」 ここに来たのは、その結果を聞くためだった。 ついでに、今度欲情したらいけない場所で欲情した場合、晤郎の裸を思い出そうとして、ギャランドゥな晤郎の身体を見に来たはずだった。 なのに情事の痕を色濃く残す、引き締まった体は――男の俺が見てもなかなかそそられる。 「なあ、もしかして絢斗と寝たの?」 「下品ですね。俺は誰とも身体を重ねていませんけど」 じゃあその背中の爪痕はなんだ。 てっきり絢斗が抱く側だと思っていたが、この傷あとからしてあいつが抱かれたんだよな? 不思議に思って晤郎の身体をぐるぐる回ってみる。 うーん。中も確認しないとどっちがどっちか分からない。 「だから、――俺は誰とも寝てません。君たちほど分かりやすくもないですしね」 俺の肩を強く弾くと、吐き捨てるように言う。 「今後、あの方を泣かせたら許しません」 「神と晤郎に誓って泣かせません」 ようやく安心したのか、甚平に着替えると部屋から出て行く。 でもなあ。楓の実家が潰れても雲仙寺にダメージが全くないのって悔しいと思う。 どっちも潰れて消えてしまえばいいのに。 「かえでー、晤郎ったら俺にはお土産ないってよ。酷くない?」 「君はこの前まで住んでたでしょ。一緒に食べましょうか」

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