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花の散り方。一
Side:楓
その夜、紫呉が風呂に入っている間、晤郎に大切な話があると言われた。
音もなく下り藤の花びらが落ちていく。
晤郎は顔色一つ変えずに『自己破産』とだけ教えてくれた。
「貴方のご実家は、自己破産の手続きを弥生さまが進めてくださるようです」
「あの人は、家のことについて発言権はなかったはず」
「そうですが、絢斗の組からお金を借りることを取り次げたのは愚弟ではなく弥生様。事業が上手くいっていないご実家は、弟くんと弥生様の派閥に分かれてしまいました」
「……」
浴衣の合わせを手で握る。きつく締めているはずなのに、風が肌に当って冷たく感じた。
寂しいことだ。この家のように、実家は廃れていく。
せめて弟と母だけは心を通わせて、家族らしく過ごしてくれたら良かったのに。
なぜ二人が争わないといけないのだろうか。
「愚弟が来た理由は、奥様の出産でしたよね。子どもが不幸になるのだけは避けたい」
「楓さまには関係ない話です」
「晤郎。私は今、ちゃんと幸せだよ。晤郎が私をこの屋敷の外に連れ出して、紫呉さんに会わせてくれたから。私はもう幸せなんです。だから、――関係なくても私みたいな不幸な子供は生まれて欲しくない」
「……」
晤郎は、テーブルの向こうでやはり表情は変えなかった。
そのまま茶封筒からいくつかの書類を取り出していた。
実家の遺産放棄の手続きと、雲仙寺との婚姻の終了手続きについてだ。
「こんなの不可能ですよ。実家の遺産放棄はできたとしても」
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