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花の散り方。二
「できますよ。ご実家に価値がなくなる今、雲仙寺も貴方を解放してくださる。これが、いいタイミングですよ」
何十枚もある書類。複雑に絡み合った種類を見ても全然頭に入ってこなかった。
「怖いんですね。お可哀想に」
「……晤郎?」
「自由になりたいではなく、今更放り出されるのが怖いんですよね。可哀想です」
表情が分からない。晤郎の言葉が冷たく刺さるのは、私をひどく憐れみ、蔑んでいるようにも見えた。
この年で何も持っていないちっぽけな私に同情をしている。
「後ろ盾もない、権力もない貴方が、――怖いんですよね。女でもないけど、男にもなれない」
「晤郎さん、やめてください」
「けれど、男に抱かれる。――あなた、幸せだって笑って馬鹿なんですか」
「晤郎!」
テーブルに置かれた書類を、彼の顔に投げつけた。
気づけば視界はぼやけて何も見えない。
うっすらと彼の輪郭が浮かんでいるだけだった。
「貴方は私に同情しているだけですか。可哀想な生きものだから、同情で傍に居ただけだと」
「はい。貴方が可哀想で哀れで滑稽で、惨めな生き物だと思っていました」
畳の上に散らばった書類を集めながら、晤郎は私を見ようとはしない。
ただただ黙って書類を集めていく。
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