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花の散り方。六

私が心を痛めないでいいように、それでいて紫呉の庇護欲をそそらせるように、晤郎が自身を悪者にしないと、私が分からない奴だと思っているのか。 私はだた諦めていただけだ。私の世界は他の人より狭いと、諦めていただけ。 本当は、ちゃんと立場だってわかっている。 それでも私の存在を、ただただひたすらに否定しなかった紫呉だけは、諦めていた私の唯一の誤算――という言い方はおかしいけど、唯一の相手だ。 だから、どうか。 そこだけはいくら晤郎でも言わないで欲しい。 「優しいですね。晤郎は本当に。――私はできたら貴方に自由になってほしかったですが、貴方が一人になるのは今、心配です」 「ご安心を。楓さまよりは何でもできますので。こちらの書類、納得できましたら、明日弁護士の方の前で記入して、お終いです。私の代わりに、貴方に専属の弁護士がつきます」 「……はい」 心の中で、満開に咲いている花から一枚落ちたような、そんな気分だ。 ひらひらと落ちた花びら。 晤郎は何か危ないことをしようとしている。 黙って何も言わずに、実行しようとしている。 私を巻き込まないように遠ざけている。 それを分からない私ではない。 ただ分からないふりをするのが正解なのか、それだけが気がかりだった。 「問題はないので、手続きは明日お願いいたします」 「楓」 心配そうに紫呉が私の顔を覗き込んだ。 普段から私より体温が高い彼が、風呂上がりでさらに温かい体温を放って隣に座っている。 それだけで私は簡単に花開くのだから単純だ。 「ではそのように。おやすみなさいませ、楓さま」 普段通りに、いつのも朝を迎えようとしている晤郎に胸が痛んだ。 「紫呉さんは、」 「うん?」 「晤郎さんが何をしようとしているのか、わかりますか?」 私の言葉に、紫呉は目を少しだけ揺らす。 「貴方も私を侮っている、というわけですね」 「や、違うよ、違くて」

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