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花の散り方。十二

「晤郎さん……」 「不安にさせてすいません」 「……そうですよ。私はちゃんと普通に別れるなら、いいんです。怒ったりしません。こんな回りくどいことしたら、押し倒しますよ」 おずおずと晤郎の布団に入った楓は、悪態を付きつつもしっかりと晤郎の服を掴んでいた。   「三人で寝ますか?」 甘えた声で、晤郎に不安そうに尋ねた。 そう言われたら、断われる野郎なんて居ないだろう。 「いいですよ。ただし、俺が寝た後に、二人でセックスしないでくださいね」 「あはは。しませんよ。――ね? 紫呉さん」 無邪気に笑う楓だけど、俺はそれぐらいならスリルがあって面白そうだなって思えた。 いつかしてやりたい。 「なあ、楓、こっち向けよ」 ツンツン背中を突くと、嬉しそうに振り返った。 「楓さま、言った本人が俺を放置ですか」 晤郎の言葉に再び向こうを向く。 「かえでー。放置しないでー」 「え、えええ?」 困った楓の姿に、晤郎の小さく落とす様に笑ったのが分かった。 楓は夜、眠れないという。 それはここに嫁いだ時に、屋敷に呑み込まれる怖い夢を見たからと言った。 だから、俺と晤郎の顔を交互に見ながら、なかなか眠れなかったが、手を繋ぐと安心したように眠った。 きっと今まで、人と触れ合って眠ったことがないのだと思う。 人の体温は、安心するから。

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