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花の散り方。十三

「紫呉」 大きな月が、窓から見える。 晤郎は、楓が寝たのを確認してから、座椅子にかけていた羽織を肩にかけて縁側の椅子に座った。 「俺は――旦那様とこの部屋で何度か逢瀬をしたことがある」 ぱちんとパソコンを開いて仕事をしながら、まるで昨日見たドラマの話みたいに音ついた声でそう言い放った。 「けれど、――愛情は無かった。温情って言うのとは違うが、どうしてもあの人を心から愛してあげられなかった」 「……は?」 「旦那様が楓さまを抱かなかったのは、俺がいい加減だったからだ。俺があの人の気持ちをもっとはっきり断ってあげていたら、……こんなに寂しい人だ。旦那様はきっと楓さまに心を揺らしたと思う」 浮かんだ月が、まるで夜の闇にぽっかり穴をあけているように見える。 不思議な、不思議な夜。 「俺は両親が亡くなって、雲仙寺が引き取って大学まで進学させてくれた。だから、旦那様を拒めなかった。逆らったらいけないって思っていたんだ。だから、身体を求められても拒否はしなかった。結婚を期に関係は終われると思ったんだけどあまりに寂しい人だから情だけは残って、ついこの屋敷に来てしまった」 「……晤郎」 「旦那様がこんなに早く亡くなるなら、愛してあげてもよかったんだろうけど。君たちみたいに男同士で結ばれるなんて、本当はきっと確率的に低いことなんだよ。俺と旦那様は少なくても、力関係があったからさ」

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