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そうだ。家出しよう。三

「人が不幸になるのに良いとか悪いとか無いよ」 「綺麗なことで」 「でも紫呉さんには少し意地悪をしたいと思っています。愛です」 私が頬を染めてそう告げると、絢斗君の目が光った。 「ほう。詳しく聞くぜ」 「紫呉さんには、年上の余裕な部分をあまり見せられていないので、どうにかして余裕を見せつけたい」 「ほうほう」 「そこで」 私は箪笥の一番上の小さな引きだしから、三日で書くのを止めてしまった日記を取り出す。 三日で辞めたのはもう数年以上まえのことだ。 その日記に、私はあの連絡先を挟んでいた。母が来た時に渡していった。 母の妹の連絡先だ。 「ここに、晤郎も紫呉も知らない連絡先があります」 「は? あんた、外の世界に知り合いがいたの?」 「ふふ。それは君にも言えません。が、できれば使いたくないし、使ったら負けなきもちがあるし、めいわくになるから連絡したくないので処分したいんですが」 「というと?」 「紫呉さんが私を見つけれたら使わないとか、どうです?」 私の提案に、彼は面白がってくれているのが分かる。 指を鳴らすと、『乗った』と八重歯を見せて笑う。 「だが、条件がある」 「はい」 「あとで俺が山に死体で埋められちまうのは勘弁だ。俺がボディガードにつく」 「えー……」 「私服はあんの? 着物は目立つぜ?」 「えっと、紫呉さんの部屋に買ってくれたのがあるはず」 「よし、任せろ。とってくる」

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