142 / 169
そうだ。家出しよう。三
「人が不幸になるのに良いとか悪いとか無いよ」
「綺麗なことで」
「でも紫呉さんには少し意地悪をしたいと思っています。愛です」
私が頬を染めてそう告げると、絢斗君の目が光った。
「ほう。詳しく聞くぜ」
「紫呉さんには、年上の余裕な部分をあまり見せられていないので、どうにかして余裕を見せつけたい」
「ほうほう」
「そこで」
私は箪笥の一番上の小さな引きだしから、三日で書くのを止めてしまった日記を取り出す。
三日で辞めたのはもう数年以上まえのことだ。
その日記に、私はあの連絡先を挟んでいた。母が来た時に渡していった。
母の妹の連絡先だ。
「ここに、晤郎も紫呉も知らない連絡先があります」
「は? あんた、外の世界に知り合いがいたの?」
「ふふ。それは君にも言えません。が、できれば使いたくないし、使ったら負けなきもちがあるし、めいわくになるから連絡したくないので処分したいんですが」
「というと?」
「紫呉さんが私を見つけれたら使わないとか、どうです?」
私の提案に、彼は面白がってくれているのが分かる。
指を鳴らすと、『乗った』と八重歯を見せて笑う。
「だが、条件がある」
「はい」
「あとで俺が山に死体で埋められちまうのは勘弁だ。俺がボディガードにつく」
「えー……」
「私服はあんの? 着物は目立つぜ?」
「えっと、紫呉さんの部屋に買ってくれたのがあるはず」
「よし、任せろ。とってくる」
ともだちにシェアしよう!