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そうだ。家出しよう。十

「えええ。似合ってます?」 「似合っとるっていうか、これが本来の姐さんなんやなあって。男として生きてても、なんか幸薄い、庇護欲そそる色男やん」 「庇護欲って……」 「無人島で生き残れそうにないけど、日本だったらヒモとしてでも生きてそうな」 「褒めてない!」 驚くことに全く褒められていなかった。 つまり顔だけは良い、頼りない男なのだろう。 この顔は、父が一目惚れして無理やり結婚したという、絶世の美少女である母譲りの顔だからね。褒められていると思うことにする。 「でもジーンズのサイズあってねえから、山下りたらショッピングしようぜ。服いっぱい買ってやるよ」 「年下の君に奢られたくないです。お金なら持ってきています」 鞄に直接入れた札束を見せると、彼は豪快に笑った。 「それ、どこにあったん?」 「私のへそくりです。財布は引き出しになかったら出て行ったことがばれるかなって中身だけ持ってきました」 「めっちゃ策略家。姐さーん。俺に時計も買ってや」 「さっさと目的地に行きつつ甘いもの食べましょう」 自分でも不思議な気分だった。 山を下りて、買い物に行ったりいろんな場所に行くとしたら紫呉さんとだろうと思っていたのに。 彼を騙して、こんな場所まで降りてしまった。 彼は今頃、あの難解なメモの解読にてこずっているだろう。 狸が上手く描けなくて諦めてしまったし、飽きてしまったからね。 「あ、ここ」 「どうしたん?」 「ここ紫呉さんに出会った場所です。晤郎が車で跳ねようとしてました」 「絶対嘘やん」

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