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そうだ。家出しよう。十一

「本当ですよ。私が子供嫌いだったら、直球で引き取りたいって晤郎がお願いしても駄目でしょう。ケガさせたふりをしてうちで療養しつつ、徐々に心を通わせていくはずだったらしいです」 「なるほど。なんであの格好いい兄ちゃんは、そんなに紫呉に優しいんや」 「まあ、旦那様のただ一人の甥だったから?」 それとも本当は、旦那さまの姉が好きだったとかね。 「もう滅びてしまう過去の話は、いいです」 「そうそう。滅びちゃう滅びちゃう」 楽しそうな絢斗くんが、アクセル全開で山を駆け降りていく。 「じゃあどうしよっかな。コンビニでおにぎり買って、ハンバーガーテイクアウトして、百円ショップ行って、ペットショップ行って」 「なんですか。そのラインアップ」 「姐さんが行ったことなさそうな場所めぐり。で、カラオケして、ボーリングしてケーキ屋でお土産買って、その母親の妹って人の家に乗り込もう。住所貸して」 運転中の絢斗くんに紙切れを渡すと、彼はちらりと見て目を丸くした。 「へえ。普通のマンションかな。ここなら車で二時間ぐらいだから寄り道して行ってちょうど夕方に着くね。俺が連絡しといてやる」 「頼りになりますね」 「あ、まずは洋服。それだけは高級品以外買わせられねえっすから」 「はーい」 少しわくわくしながら私は山を下りた。 山の入り口の門の前を通り過ぎるのだけは、どこか新鮮で胸が躍ったのは内緒だ。 それから、一時間ほどひたすら走って、コンビニに着いた。 コンビニで絢斗くんが煙草休憩をしているので、私は中で飲み物を物色した。

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