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そうだ。家出しよう。八
「馬鹿みたいです。……馬鹿みたい」
くだらない。馬鹿だ。
着ていた服を脱ごうとしたら、紫呉さんが服の裾を押さえてきた。
「離してください」
「俺は、楓が好きだから、いないなら探してしまうだろ!」
何故だが泣き出しそうな紫呉が、私の服をきゅっと掴むとゆらゆら揺らしだす。
「あんたが誰かに頼るってことはないから、どうせ母親のことにいくんだろうって探しただけ。あんたが山から下りてくれて嬉しかったのに、俺が傷つけてしまったんなら謝る。けど、俺は楓が居なくなったらどんな手を使っても探し出すだけ。俺だから見つけられただけだよ」
必死な紫呉さんは、今にも涙が零れそうだった。
「だって、仕事……」
「仕事なんかより楓が一番だ」
「でも、セックスしてこないし」
「毎日したいけど、楓の負担が大きいでしょ」
「……これからも、こんな風に擦れ違うだろうし」
「楓も働かない?」
いじいじと言い訳ばかり探していた私に、紫呉が提案してきたので顔を上げる。
「楓がどんな職業を好むか分からないけど、俺の会社、しばらく通販するから宛名の入力とか梱包とかしていって、資格とるなら通信教育あるし、少しずつ世界を広げて行こう」
「紫呉さん……」
「いきなり真っ暗な夜にいたのに太陽を見たら、きっと目を閉じちゃうでしょ。少しづつ慣らしていこう。ゆっくり、楓のペースでいいんだ」
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