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そうだ。家出しよう。十三
「楓」
チューリップ畑越しに、二時間ぶりに見る楓はとても可愛い……じゃなくて、冷たい顔をしていた。
まだ怒ってるのかな。
「たださえ外国人のアパートで、連日連夜パーティして風当たりが強いのに。大きい人間が外で騒がないでください」
「騒いでないし。あ、これ、つまらないものなんだけど晤郎から」
菓子折りを渡すと、奥で笑っている女性の方へ踵を返す。
何か言ってくれよ。せめて怒ってないって嘘でもいいから言ってほしい。
「凛さん、ジョーさん、今日はもう帰ります。これ、つまらないものですが」
「あら、すいません。じゃあ、うちはこれを」
「わあ、良いんですか。ありがとうございます」
楓が乙女のようにはしゃぎながら、紙袋を受け取っていた。
ああ、足が長いからジーンス似合うし、タートルネックで肌を隠してるのにその分、身体のラインがはっきり見えて、逆にエロい。
この姿で歩いたら、女どもは失神するんじゃねえのか。大丈夫か。
「紫呉さん」
「あ、はい。挨拶を」
凛という女性は朗らかな人で、弥生さんとは全く似ていないけど、芯の強そうな女性だった。
俺の登場にも絢斗の登場にも嫌な顔一つせずに、素敵な女性だった。
「……紫呉くん、だっけ」
「はい」
「姉さんは、あの家で幸せそうだった?」
車に楓が乗り込んだタイミングで言われ、一瞬固まってしまった。
悲しそうに伏せられた目。お腹を擦りながら、楓を見ている。
妊娠している女性に、真実を言うのは酷だ。
「少なくても楓の父親は、楓の人生なんてどうでもいいって感じのなりふり構わず、弥生さんを守ろうとしてたから幸せなんじゃないっすかね」
「……そう」
「楓はこれから、俺と幸せになるんで大丈夫ですよ」
任せてください、とVサインしたら楽しそうに笑っていた。
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