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そうだ。家出しよう。十七
「楓……」
「私、あの屋敷を出たら貴方の戸籍に入って性別も戻そうと思ってるんです」
「逆ポロポーズ!?」
「英国では同性婚できるんだって。日本でも認められつつあるみたいだし、君に私のすべてをあげたいので」
力を込めていた拳の上に、楓の手が包み込むように重ねられた。
温かい。俺が暴走しようとしたら、この手に止めてもらいたい。
愛しくて暖かい手だった。
「全部貰う。楓の幸せは、今始まったばかりだよ」
「あはは。打ち切り漫画の終わり方みたい」
本気で言ったのに、そうやって茶化すのはどうかと思うので唇を塞いだ。
すぐに離したのに、頬を染めた楓が俯く。
「……キスは、毎日したいです」
「する。唇腫れるまでする」
頬にかかった髪を耳にかけると、耳が真っ赤に染まる。
「夜が怖いので、……朝まで抱きしめて欲しいです」
「めっちゃめちゃ抱きしめる」
「仕事ばっかじゃ、駄目です、よ?」
茹で蛸になった楓が顔を上げた。
恥ずかしくて濡れた瞳に、幸せそうな俺の顔が映りこむ。
楓を幸せにしたいと思う原動力が、俺を幸せにする。
こうやって俺を困らせようと、我儘を言おうとして真っ赤になって自滅しちゃうような楓が、好きで好きで好きで。
発狂しそうなほど好きで、抱きしめて壊してしまいそうで怖い。
恐る恐る抱きしめたら、背中を抱きしめ返された。
ムードのない、ラブホテルなのに。
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