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 あまりに暇を持て余していた私に、世話係である晤郎がそう意見した。  縁側で小説を読みながらおせんべいを食べていた私は、くちを開けたまま固まる。 「……ペット?」 「山の麓に、迷子犬や拾い犬の里親を探す方々がテントを出して場所を貸してほしいと連絡がありました。見に行きませんか?」 「……でも、女物の着物しかないし、飼いたいなら適当に晤郎さんが見繕ってくればいいでしょ」 「もう誰も貴方を監視する人はいません。少しぐらいいいんではないでしょうか」 「うーん」 監視はしないけど、多分誰の目にも触れないように息を潜めて生きて置けって意味だと思うんですけども。  そうじゃなければ旦那様の財産もらって、さっさと雲隠れしてるってば。 「御用しますね。車に乗ってください」  ここに連れてこられて毎日泣いていた私を見ているせいか、晤郎は私には絶対に意見は言わないし甘やかしてくれている。のに今日は全然引こうとしない。  頑なに私を外に出したいのだとひしひしと強い意思が伝わってきた。 「まあ、晤郎さんの意見ならしかたないか。いいですよ」 本当は全く興味がなかった。なので車に乗っても、引き続きおせんべいを食べながら本を読みつつ山を下りる。 山を下りるなんて、旦那様のお葬式以来じゃないかな。あの時はまだ体が完全に成長していなかったから誤魔化せたけど、もう無理だ。 私は、私ではない。 「楓さま、すいません!」 「え? うわあああ」 突然の急ブレーキに、晤郎が大きくハンドルを右に切る。道路以外は整備されていないので、車は大きく揺れて私も何度もお尻が浮く。

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