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「どどうしたの?」 「子どもが――」 「子ども?」  車から覗くと、蹲った小さな子どもが道の真ん中にいる。 「大丈夫? 跳ねられた?」 車から飛び出してその子に駆け寄ると、急に顔を上げた。 「おれじゃない。こいつがわるいんだ。ばんめしが跳ねた」 「ば、晩飯?」 「こいつ食えるかな。ウサギ鍋美味しい?」 「何を――」  元気そうな子供を見て安心しつつも目を見開く。信じられない。  優しそうな顔。眉が少し下がりぎみなのかもしれない。でも似ている。 旦那様にそっくりだった。 「……紫呉(しぐれ)という名前だそうです」 「晤郎?」 「駆け落ちしていなくなっていた旦那様の姉君の忘れ形見だそうです」 「……私の甥っ子ってこと?」 突然の発言に、眉間に皺を寄せながら小さな子供を見る。 まだ10歳にもならないような子。顔は旦那様そっくりで品があるけど、ウサギの耳を掴み、暴れたウサギに蹴られている。よく見れば薄汚れてこ汚い。 政略結婚が嫌で逃げ出した姉がいたとは旦那様から聞いていたけれど、この子が……。 「つまりこの子と会わせたくて、無理やり私を下に下ろそうとしたわけか」 「すいません。言い出しにくくて」  この子の様子からして、義父は引き取ってはいないのだろう。 「坊や、ウサギが可哀想だから逃がしてやり」 「なんで。施設に持って帰って皆で鍋食べたいから嫌だよ」 「うちに来たら、御馳走がいっぱいあるから、今回は逃がしてやりな」 「いいの!?」 「ええ。晤郎のご飯は美味しいですよ」  まるで野生の獣みたいな子どもだった。誰も躾してくれなかったのか、自由奔放で教養もくそもない、って感じが逆に清々しい。

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