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* 「おーきーてー、楓。おーきーて」 「……え」 目の前に紫呉の顔が映り、思わず飛び起きた。 「縁側で眠ってたら風邪ひく。布団持ってきたよ」 「……ありがとう」 先ほど、中の綿を入れ替えて物干しざおに干していた布団が、地面にずるずる引きずられて私の肩にかけられていた。小さな紫呉がここまで持ってきてくれたのだから怒れない。 「泣いてたけど、怖い夢見たの?」 「あら、本当ですね。涙が零れてますね」 慌てて目元を拭うと、靴を放り投げながら紫呉が縁側に乗り込み私の隣に立った。 「こんなとこで寝るからだよ。よしよし」 頭を撫でたあと、肩の布団をかけ直してくれた。 彼は躊躇なく私に触れてくる。 「早く起こしてあげたかったけど、なんか寝顔綺麗で俺、動けなかったんだ」 「ええ。じゃあずっと見ていたんですか。恥ずかしいですね」  両頬を覆い隠して笑うと、紫呉は視線を床に落とす。 「べつに。この本とか読んでたし」 「もう字も読めるのですか」  視線を落とせば、晤郎のお気に入りの恋愛小説だ。退屈で眠って、悪夢を見ていたのか。 「なあ、楓。くちをすうってどんな意味?」  私が縁側に置き忘れた本を読みながら、紫呉が言う。  まだ幼い、私の可愛い紫の君。

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