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十一
晤郎が借りてきたホラー映画を見ながら、みかんを食べて呑気に夜を過ごしていた時だ。
珍しく電話が鳴って、しかもそれが紫呉からだった。
久しぶりの紫呉の声は、低くて甘く……旦那様とそっくりだった。
でも問題はそこではない。
『だから、俺、大学卒業したしそっち帰る』
「帰るって、貴方仕事は?」
『大丈夫。小さな会社を大学中に起業したんだ』
「ええ……まあ血筋から心配ないだろうけど、でもまあそんな仕事軌道にのるはずないし無理でしょう。尚更、こんな山奥では」
『だいじょーぶ。決心したんだ。俺、やっぱ楓のそばにいたいって。帰るよ。部屋開けといて』
「……ちょ、紫呉っ」
こっちの話も聞かないまま、電話は切れてしまった。
部屋はいくらでもあるのだけど、でもどうしてまたここに?
「全く、あの子は人の話も聞かず……」
「楓様もこの数年の彼の様子を見に行くこともなかったでしょ」
「私はここから出るわけにはいかないからで」
「言い訳ですよねえ。あんな幼い子にキスしたりするから」
「……あら、旦那様に似てるから晤郎さんの方が恋しいんじゃないですか?」
ちらりと意地悪な視線を向けるけど、もうとっくに昔の話なのか彼は目を細めて首を振る。
「紫呉くんは、旦那様よりも素敵に成長してますよ」
「ふうん?」
都会に染まっていたらどうしよう。金髪でへそ出して、――って私には外の想像が全然できないからわからないんだけど、どうなんだろう。
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