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十二

「こんな屋敷に帰ってきても仕方ないのに。でもまあ今年はひまわりでも植えてみようかなあ」 「調達いたします」  晤郎も家庭を持ってちゃんと生きればよかったのに、見た目は渋くて甚平のよく似合う渋オジサンだから勿体ない。  私が突然の親族の訪問に備え、身体のラインが隠れる着物を好むから甚平とか合わせちゃってさ。 時々すごく申し訳ない気持ちになる。あの時、私が気づかなければ、二人はこっそりでも愛し合えたのではないだろうか。  それともあの後も二人は恋人を続けたのか、そもそもあの様子は恋人だったのか。  聞けないけれど、聞いたらいけないのは分かる。 「晤郎さんが私の傍に居るのは、贖罪?」 「楓さま」 「そこに愛はないのだよねえ。君の読む本で言うと、姫を守る騎士か。や、でも確か王様の姫を奪って自分の城にさらった色男がいたよね。サー・ランスロット卿だったかな」 「楓様!」  剥いていたみかんを握って晤郎は本気で怒っている。体を震わせているので、からかい過ぎたのだと分かる。 「ごめん。ただ晤郎さんは自由に生きていいよって言おうと思ったんです」 「俺は貴方が自由に生きないうちは、騎士で結構です」 「ふうん」  晤郎が頑固なのは知っているので、私もこれ以上は何も言わない。  あの日のことを気にしてるなら、私は許しているのに。  そう何度も伝えたけど、伝わっていないんじゃなくて、きっと自分が自分で許せないんだ。 いつか晤郎の口から、旦那様のことが聞ける日が来たら良いのだけど。 「で、あのワンコはいつ帰るって言ってました?」 「明日、荷物と共に」 「そう。明日……」  再びみかんを剥きながら相槌を打つ。明日とはまた急に。 「って明日ですか!?」

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