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十四

* Side:雲仙寺 紫呉 『口をすうって、どんな意味?』 俺が見上げた先には、先ほどまで夢で泣いていた綺麗な人。 晤郎が『お家のために犠牲になった可哀想な人』と泣いていたのを見たことがある。 晤郎が可哀想だというその人は、初めて会った時から寂し気に笑う人だった。 笑っているのに生気がないというか、綺麗なんだけど崩れてしまいそうで怖い。 泣きながら眠っている顔は、頬が熱くなるぐらい綺麗なのに悲しい。 俺はまだ子供で、あの人がどんな風に生きてきたのか知らなかった。 ただすべてを持っているのに、全く満たされていない人だった。 綺麗なその人は、俺に唇の吸い方を教えてくれた。 優しく何度も。それは重ねるだけのただただ優しいキス。 その人は、俺に勉強を教えるように教えたかっただけかもしれない。 けれど絶望みたいな日々を生きていた俺は、その熱い唇で初恋を自覚した。 父が病死し、借金で日々働き倒しし母が倒れた。 父の葬式は記憶があるが、母の葬式が記憶がない。 確か母の弟である人が病気で大変な時期だったらしく、実家と疎遠だった母の死は惨めだった。俺もそのまま施設に預けられて、いつもお腹が空いていたと思う。  皆で山で食べられる薇とか探したり、お金がない小さな施設だった。 その日々から救ってくれた楓は、神様みたいでしかも絶対に怒ったりしない人。 怒らないけど、俺に何か話があるときは屈んで視線を合わせてくれる。 怒らないんじゃなくて、諦めてるというか、興味さえもたないようにしてるのかな。 大きな屋敷に住んでいるのに縁側で小さく丸まって本を読むような人。

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