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再会 八
「聞き分けのない子どもみたいな人ですね」
成人した男性が我儘なんて言っても可愛くないよ、と伝えようと思ったけれど、不安そうな顔でまっすぐこちらを見る紫呉は、少し可愛い。
面影はほぼ消えても、犬のように人懐こい性格は変わらなかったようだ。
壮絶な人生のはず。親の愛情も知らないはず。なのに、どうして彼はこんなに真っすぐで正しい瞳をしているのだろう。
「……楓が、ぬいぐるみと眠ってるからだろ。ぬいぐるみと寝るぐらいなら俺と寝ろよ」
「流石にもう布団に入れて寝たりしてませんよ。あれは、旦那さまが布団に入ってこないように始めた習慣だったんです。居なくなってからは止めたつもりですが、何故かぬいぐるみが増えちゃって」
「言い訳は良いってば。俺の方がぬいぐるみより大きいし、あったかいし」
「……じゃあ三人でお布団並べて寝ましょうか。ふふ。初体験ですね。どこにお布団敷こうかな」
私と晤郎の真ん中に、紫呉が眠る。想像しただけで面白い。
「嫌だ。なんのために俺がここに帰ってきたと思ってんの」
「家賃と食料が浮くから」
「かーえーでー」
ずさーっと寝転んだ紫呉は、這いずって私の膝に頭を乗せた。
顔を埋める、と言った方が正しいと思う。
窒息しないのだろうか。
「……楓のここ、ちんこある」
「何を確認してるんですか!」
驚いて突き飛ばすと、縁側の端に逃げてしまった。
びっくりした。小さいころ、胸を揉まれたことはあったけど、着物の上からだったし。
今回も着物の上からといえ、わざわざそれを確認するために顔を埋めたのかと思うと呆然としてしまう。
「……あの、残念ながら身体は望まれていないものが付いてはいます。……君にも晤郎がちゃんと説明したと思うのですが」
「うん。でも確認したくなった」
「……っ」
立ち上がろうと片膝を付く紫呉に、身体が大きく震えた。
廊下の端、足に行き止まりの手すりが当たり動揺する。
どうしてかわからない。けれど、近づかれるのは怖い。
立ち上がれば身長も全然違う。体つきも、違う。
どうしていいかわからない。ただ不安そうな顔は、沈んでいく夕日が隠してくれたと信じたい。
晤郎を呼ぼうにも声が出なかった。
「ごめん。なんか、楓が冷たいからべたべたしすぎた。……怖い?」
立ち上がるのを止めた紫呉は、大きくため息をつくと項垂れて柱に抱き着いた。
「楓が俺を知らないヤツみたいに見るんだもん。楓は全く変わらないけど、俺は変わったからしかたないけどさあ。昔はキスだってしたし、一緒に寝たし、膝枕してくれたのに」
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