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再会 十二

が、結局晤郎の信頼を得られなかった紫呉は、二人でお風呂に入ったようだった。 うちの風呂は温泉が湧いてるので、源泉にお湯を入れて温度を調節しながら入る。調整がうまくいかないときがあるとかで、私がここに嫁いだ時に大きなお風呂に改築工事したらしい。 多分5人ぐらいは余裕で入れる。雲仙寺の宿とかってここで小さな旅館を始めたら、穴場として人気がでるかもしれない。それぐらいにはそこそこ気持ちがいい。 「やべー。あのお風呂、肌がつるつるになる」 「紫呉さん」 まだ髪も濡れたままの姿で、声も掛けずにいきなり私の部屋に入ってきた。 晤郎の浴衣を借りたのか、がっしりした手や足首が見えている。 「なんでそんな小さな明かりで本読んでるの?」 布団の上で寝転んで、枕元の照明で読んでいたのを不思議がられた。 「その方が集中できるんです」 「ふうん。何読んでるの?」 遠慮せず布団の上に座ってきたので、起き上がってやんわり距離を取ってしまった。 人の布団を踏むのは行儀が悪いよ、と伝えるのも難しいかな。 「時間が潰せればどんな本でもいいので、タイトルも確認してませんでした。これは――」 表紙を確認しようとしていた手を掴まれ、紫呉の方へ向けられる。 「えっちなやつじゃないの」 「……たまにそんなのも混じってるかもしれません。恋愛小説には切っても切れない画面でしょうし」 「俺も、そーゆうの結構持ってる。ちょっと待ってて」 何を持ってくるのか分からないけど、待ちたくない。嬉しそうに走る紫呉の足音が、嫌な予感しかしない。 「じゃーん」 足で戸を開けて、段ボールを持ってきた。 ガムテープを開けると、そこには本やDVDが入っている。 「こ、これは」 「俺、大学は一人暮らしだから、友達が隠させてって置いてったり、女っけねえから貸してくれたりくれたり」 「……っ」  AVというものだろうか。女性の裸のパッケージに目眩がしそうになる。微笑んでいるので嫌がってはないのだろうけど、ここまで肌を見せるなんて。 「どれ見る? ってか楓って恋愛対象って男? 女?」 「か、考えたことないです。それ、……仕舞ってください。好きじゃない」 「怒ってよ」 段ボールを後ろへ押しやると、紫呉が近づいてきた。 「今の、怒ってもいいよ。選べなかった楓に意地悪してみただけ」 「……今のが? どこが?」 選べなかったということは、恋愛対象のことだろうか。 「いっつも楓は怒らないんだよな。俺、――怒られてみたい」 「怒らないわけじゃないですよ」 「そうだよな。興味ないだけだもんな、自分をこんな風にした世間に」 「……紫呉さん?」 言葉の端々に棘が含まれている。彼が何を言わんとしているのか意図が分からない。 「俺に興味を持ってほしいんだ。子どもとしてじゃなくて、俺を見て欲しい」 身を乗り出してきた紫呉に、一歩引こうとして手を掴まれる。 紫呉が反対の手で灯りのスイッチを消した。 「な、……に?」 「俺、夜中に起きてトイレに行くのが怖かったんだ。この屋敷、トイレまでの廊下が長いし、薄暗いだろ?」 「はなし、て。離して」 「でもさ、楓の部屋に小さく灯るこの光が好きだった。この屋敷で唯一、夜でも淡く光る存在の楓が好きだった」 掴んでいた手の人差し指が、着物の袖の中へ入りこみ、肌の上を這う。 もう一方の手が腰を引き寄せてきて、彼の胸の中に倒れ込んでしまいそうになった。 「俺、何年経っても頭の中、楓しかいないんだ。楓のことだけを考えていたい」

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