29 / 169

再会 十三

「それは……私が拾ったからですね。君の世界に私しかいなかった時期の迷いでしょう」 「迷いじゃねえし。今、こうしてここに帰ってきたってことは本気だよ、俺」  はっきり言えば、恋愛経験のない私でも、彼から違和感を感じていた。 無邪気に装っているのは、何か企んでいるのかなと。ここに帰ってきてから何か不安が頭の片隅に落ちていた。 「俺、初めて会った時からずっと、――ずっと」 「待って。待ってください。ご、晤郎、晤郎さんっ」 胸の中で暴れながら彼の名を呼ぶ。 すると、身を捩った私はバランスを崩して布団の上へ倒れ込む。 腕を掴まれていた彼を道ずれに。 見上げたそこに、濡れた髪を垂らして私を見る彼がいる。 「晤郎呼ぼうとしたら、この唇を塞ぐ」 「なっ」 唇をなぞられて、体中にぞわっとした気持ち悪さが広がった。 唇をなぞったあと、不意に顔が近づいてきたので、ぎゅっと目を閉じた。 声を出せない。力では敵わない。そして押し倒されて自由はない。 ただ目を閉じて、耐えるしかない。 彼の突然の行動に、全身が震えた。 押し倒された私が、――いつかの離れの窓から見た晤郎に重なる。 「紫呉さん、怖い、です」 目を閉じて、言いながら声が震えてどっと涙が込み上げてきた。 けれど涙を抑えられず、ただ一滴目尻をたどって布団へ落ちていく。 あの日、晤郎は嫌だと言いながらキスを受け入れていた。 それなのに泣いていた。私がいるから、拒まなければいけなくて。 私がいなければ、……好きな人を拒むこともなく、あのまま二人は愛し合ったのに。 「な、泣かないで。ごめん。聞いて、ごめんなさい」 身体が軽くなると同時に、焦った紫呉が布団の上から出ると、畳に額を擦りつけて土下座していた。 「違うんだ。俺はもう子供じゃない。こんな場所でミボウジンなんてやってる楓を、幸せにしたい。俺は、楓が好きなんだ」

ともだちにシェアしよう!