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三日通うから 一
Side:紫呉
「それでですね」
「楓、風呂長くない? もう30分入ってる」
「聞いてますか?」
老眼なのか眼鏡をかけて、いろんな書類を見せながら晤郎が説明を始めた。
そういえば晤郎って何歳何だっけ。母さんの弟で雲仙寺二代目で楓の旦那が生きてたら37歳とかじゃなかったっけ。じゃあそれぐらい?
「聞く気がないなら布団を敷くので一緒に寝ましょうか」
「いやだ」
なんでお前と寝るんだよ。……寝るなら楓と寝たかった。
けど、今日の様子だとひどく混乱していたし怯えさせてしまったから駄目だろう。
ただ俺はあの人を好きだと伝えたかっただけなのに。
「旦那様が亡くなった後、楓さまが雲仙寺家の会社の株の7パーセントを相続しました。それと旦那様の財産も全て。そして、土地や山の所有もあります。ここまでは問題ありません」
「ふうん」
「問題は、楓様のご実家が婚姻時に雲仙寺から結納金だけではく会社の株を二パーセント頂いたことです。これにより、もし楓様がご実家に株の権利を渡したら、――会社の統制が壊れる」
思わす舌打ちしそうになった。んだよそれ。
死んだら死んだで自由にしてやれよ。そんなに雲仙寺内での権力や発言力が高い位置に留まらせたいのかよ。金は困らないかもしれないけど、この生活から逃げられないって意味じゃん。
ただただ縛り付けるだけの権力に何の意味があるんだ。
「それで、貴方にも旦那様は一パーセントですが、残しております。……これは遺言により貴方が二十歳になるまで養育者である楓さまが管理していました」
「……俺にもあるって別にいらねえけど」
「貴方と楓さまが一緒にいることによって、嬉しく思わない人たちが大勢いるので貴方への遺産については伏せられていますが、貴方が望めば雲仙寺三代目は貴方が継げますよ」
「継がない」
母さんの葬式も父さんの葬式も来ない。俺が高校時代に、弁護士連れて遺産放棄しろって言ってきたやつらだ。爺さんなんて顔も知らない。
一番嫌いなのは、楓の――。
「でしたら、遺産放棄されますか? それはそれで、貴方の株を楓さまが所有されたらあの方への風当たりが強くなるやもしれません」
「じゃあできないじゃん。なんでここまで楓を苦しめるんだよ。楓にだけ苦しめて、針の筵みたいに責められるなんてありえねえよ」
「……紫呉」
急に晤郎の声が低くなる。一度だけ視線を廊下側の襖に向けた。足音もない。
楓はまだ風呂に入っているのを確認したんだ。
「ここだけの話です。現在、楓さまのご実家の経営が上手くいっておらず――偶にお金の工面に来られます。……楓さまを守りたいなら分かりますね」
悪魔の囁きだった。晤郎の顔は、楓の実家を助けろとは言っていない。寧ろ、今しかないと言わんばかりの顔だ。
「本当だったら、貴方が全部手に入れてもよかった。それが今、貴方の手にかかっている。俺はただそれだけを伝えておこうと。……まあ、戯言ですね」
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