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三日通うから 二

「晤郎、それって」 「――しっ」 表情も変えずに、襖の向こうに視線を送る。 小さな足音がゆっくりとこちらに近づいてくる。 この人、本当に周りをよく見て、気づいてる。 「もう楓には両家の後ろ盾もないんでしょ。権力だけはあるけど。それなのに、晤郎が楓の傍に居る理由って何?」 俺の高校に、弁護士と一緒にやって来たり、先回りし先回りし、楓の元へ最悪の展開がいかないように回避している。 そこまで楓に尽くす理由が分からない。 「……俺は雲仙寺家に引き取られた孤児だったから。旦那様にも恩があるし、それに……・昔、とても楓さまをひどく裏切った。許されることではない。俺がもう少し強く拒んでいたら……後悔しない日はない」 「つまり同情と義理?」 「最初はね。けど今は、あの人に誰もいないなら俺が守ろうと思ってる。健気なミボウジンの彼に、ね」 そのまま書類を急に開き、あたかも話をしているような場面を作る。 そのタイミングで、小さい音でノックされ襖が開いた。 「出られましたか」 「――晤郎さん」 タオルを頭から被り、小さな声で名を呼ぶ。俺の名前ではなかった。 「どうしたんです? ドライヤーは?」 「見つからなかった。話はどこまでしたの?」  こちらを見ないのは故意なのだろう。小さく開いた襖から、揺れるタオルしか見えない。 湯上りの楓が、もっとちゃんと見たい。 「一通り話してますよ。探して部屋に持っていきます。待っていてください」 「ありがとう。今日は疲れたから、もう寝ます」   弱々しい声と共に襖が閉まる。すると笑顔の晤郎が此方を見る。 「……先ほど、なにか言ったのですか?」 目が笑ってない。これは、何を言っても殴られる。 いや、きっと殺される。だったらこれから先のことを思うと、正直に言うしかない。 「言ったよ。俺は、楓から離れないって。恋愛がしたいって」

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