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三日通うから 三
「……中途半端な思いなら、今すぐここで殺して差し上げます」
太ももに置かれた両手が、ぐっと力強く握られる。あれで殴られたら痛いだろうけど、そんな痛みより、楓の今まで生きてきた時間の方が辛くて痛い。
「中途半端じゃない。楓は戸籍的には女だし。俺は雲仙寺家の誰とも養子になってない。法律上は問題ない。ここまで調べてから、戻ってきてる」
とても寂しい館だった。隙間風は、屋敷を壊しそうなほど揺れる。
薄暗い廊下も、日が当たらない部屋も、木々が生い茂っただけの庭も、すべて不気味で寂しい。
ただ一人、楓がいる場所以外は。
彼がいると、薄暗い廊下も眠りを誘う優しい夜に見え、木々が生い茂っただけの庭も花が咲いているのを見つけれたり。
縁側で丸くなって本を読む、その横顔。つまらないのか面白いのか表情に出ないけれど、小さく細い背中は壊れてしまいそうに儚くて。
一度、泣いている楓を縁側でみたことがある。
この人、普段うっすら微笑んでいるだけで穏やかな人かと思っていたのに、泣けるんだ。
……いや、夢の中でしか泣けないんじゃないのかな。
養護施設にいた時は、好きなものも買えないしお腹は空くし、学校の授業参観は誰も来ないしで、不満しかなかった。
なのにいざ、全て持っている楓を見ても、全く羨ましいとは思えなかった。
寂しい人。一度だけ唇を寄せてくれた人。
その唇の温かさを名残惜しそうに指先でなぞって、目を伏せた人。
あの人は何も満たされていないのに、望むことを許されない。
綺麗で寂しくて、儚い人。
「俺は、楓にも幸せになる権利があると思ってる。誰よりも、世界中で一番、楓が幸せになるべきだって思ってる」
込み上げてくる涙はのみ込む。この痛みの比ではなほどの苦痛の中を彼が生きてるはずだから。
「俺は、彼を愛してます」
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