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三日通うから 八

「そんなに警戒しないでも、俺、襲ったりしないし」 「こ、言葉を選んでください」 紫呉から逃げるために、食事を自室で食べていたら、障子の向こうに胡坐を掻く紫呉のシルエットが浮かぶ。 「俺の告白は嫌だった?」 「……」 「俺が嫌い?」  若いからなのか、直接聞いてくる彼に戸惑う。もう少し、私の態度や言葉尻から感じ取るとか、努力してくれてもいいのに。 目の前に並べられた、私のリクエストの瓦蕎麦が、突然味のない粘土のように感じて箸を止める。 「貴方が羨ましいのかもしれない。……あと恋愛感情はない、です」 親代わりとして懐いてくれたり慕ってくれてるのなら嬉しいけど、違うならば戸惑う。 「うわ、はっきり言われたらめっちゃ凹む。うらやましいって何が?」 障子の向こう、大きく首を傾げる。 そんな風に、誰の目も気にせず自分の思っていることを言えること。表情や動きに出せること。 何処に住むとか、どんな職業に就くとか選択できるところ。 言い出したら、自分が小さい人間だと気づかされるから言わない。 「俺は、楓とセックスしたい、キスしたいし、頭を撫でて欲しいし、頭を撫でてもらいたいし」 「せ!?」 「……楓の口から、俺が好きだって、発言してほしい。楓だって思ったことを言っていいし考えていいし、行動していいはずだ」 「……セックス」 後半良いことを言おうとしていたけど、前半の衝撃的な言葉に頭が真っ白になる。 恥ずかしながら自分のセックスへの認識は、晤郎と旦那様の逢瀬と、本の中でしか知らない。 だから驚いた。あの行為を、こんな昼間っから恥ずかしげもなく言える紫呉に。 「好きな人に触れたいし、触れられたい」 「……」 「部屋に入っていい?」

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