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三日通うから 九
「駄目です」
「なんでだよ! 部屋に入りたい!」
「そんな発言した人を、居れるわけないです!」
子どもみたいな喧嘩。
こんな会話をしたいわけじゃなかった。
この静かな館に光や音をくれる子。
けれど、それだけだって思っていたのに。
「じゃあ、入らないから開けてよ。俺、縁側で食べるから。楓はそこで食べればいいから」
「……」
「一人で食べるのは寂しいよー。楓―」
甘えた声を出して、反則だ。
決して私はこの子が嫌いなわけではない。
ちゃんと可愛いと思っているいるし、情もある。
ただ、身体を繋げる行為だけは、抵抗があるだけで。
「いいでしょう。私は一人で食べたくないので」
障子を開けると、陽だまりの中、ぽかぽかの笑顔を浮かばせる紫呉が、胡坐を掻いて両手を広げて待っていた。
「食べよ。超腹減った。オニギリも握ってもらっちゃった。楓はそれで足りるの」
ぺらぺらと良くしゃべる子。好奇心旺盛で、可愛らしい。
「体の大きさが違いますからね。私はこの量で充分です」
どこからか持ってきたテーブルを縁側に広げて、私もそこにお邪魔する。
夏に、庭で素麺流しとかしたら、紫呉は喜ぶだろうなとふと過る。
「そういえば、俺、いっぱいお土産持って帰ってきたんだよ」
「お土産?」
「まあ、段ボールの中のどっかにある。バタバタ引っ越したから段ボールに名前書いてなかった」
「そうですか。足早いものでなければ私は別に急ぎませんので」
都会のお土産となれば、食べ物かな。
晤郎は自分が作れないからと、洋菓子とかクッキーとかよく買ってきてくれるけど、甘い菓子よりもカレーパンとかピザとかの方がちょっと好きだったり。
話を聞きながらご飯を食べていると、私が一口食べる間に、紫呉はおにぎりを半分齧り、しかも瓦蕎麦なんてぺろりと平らげてしまっている。
「……よく食べますね」
「だからお腹空いてるんだってば。お替りあるかな」
「少し食べます?」
運動もしないし動かないし、日々特別な仕事もないのでお腹はあまり減らない。
ので、あげようとお皿を持つと、紫呉は嬉しそうだ。
「え、間接キスしちゃう? いいの?」
「……飢え死にしてください」
「ひどーいー」
この軽いノリはちょっと好きじゃないなと睨み、私も完食してやった。
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