43 / 169

三日通うから 十二

「涼しい……」  クーラーが取り付けられていて、冷房が入っている。畳の上を、いろんな配線が繋がっているし、廊下や壁側にまだ段ボールが高く積み上げられている。 部屋にはベットと、デスクの上に三つ並んだパソコン。 テーブルらしき物体の上には飲み物や資料や、小さなパソコンのような液晶の道具、そして脱ぎ捨てられた服がベットの上に散らばっている。 「いや、ちょっとは片付けなさい。なんですか、だらしない」 「なんでー。楓が荷物少ないだけだよ。これ、楓にお土産」 段ボールを軽々持ってくると、ベットの上に置いた。 「……このベット、良いですね」 いつも布団を敷いて寝るので、ベットは新鮮だった。 恐る恐る乗ると、柔らかくて、スプリングが面白くて飛び跳ねたくなる。 「――あれ? ベットに座っちゃって誘ってるの?」 「座る場所がないからです。というか、すごい量……」 出てきたのは、時計。黒のジャケット、ジーンズ、お菓子、香水、英字の小説、ハムスターのぬいぐるみ、押し花のしおり、ひざ掛けと、ブラックホールのように次から次へ出てくる。 「これ楓に似合いそうって思ったらついつい買っちゃってさ。どんどん増えていったんだよね」 「……ふうん」 紫色のTシャツはまだ着物の下に着れるかもしれないが、次に出てきた灰色のセーターは流石に着れそうにない。 「男物の服は着ないので困りますが、他のは頂きますね」 「なんで。絶対似合うよ。良いじゃん、俺しか見ないよ」 「……そう言われても」 着物以外の自分が全く想像できない。 「あ、あとこれ。250センチのデディベア。30キロするんだよ」 押し入れから倒れるように飛び出てきたクマのぬいぐるみに驚く。 何を考えて無駄使いばかりしてるんだ。 「……あー、失敗した」 紫呉がパソコンの前の椅子に座ると、くるくると回りながら頭を押さえている。 「喜んでくれると思ったのに、困らせた。しくった。ごめん」 しょんぼりとデスクに顔を埋めると死にそうな声で、謝ってくる。 ……そんな態度はずるいと思う。 「いえ。気持ちは嬉しいのですよ。でも、今更って思いもあるんです」 「じゃあ、喜んでる?」 「はい。嬉しいですよ」 立ち上がって、いじけている紫呉の髪を撫でる。 ここまで我儘に振舞えるのも羨ましいものだ。 「……俺は、もっと楓の我儘が見たいし、もっとどんなことを思ってるか教えて欲しい」

ともだちにシェアしよう!