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三日通うから 十三
「思い……ですねえ。なんというか、この年になると今更思ってもねえ」
「俺が全部叶えますよ。俺が、貴方のためなら何でもします」
「……紫呉さん」
格好良く決めて私に手を伸ばした瞬間、パソコンの画面の方からピロロロンと間抜けな音が聴こえてきた。
「なんすか。あー……会社の方だ」
「会社?」
「俺、一応今年から三人の仲間と共にこの会社やってるから。あーまって」
マイクを装着して、相手に何か指示をしている。
画面の向こう側の男性も、紫呉と同様に家の中でヘッドフォンを装着して仕事をしている様子だった。
こんな働き方もあるんだねえ、とちょっと画面を覗く。
『って、紫呉、その横の美人だれ?』
「えっ」
向こう側から私も見えていたのか。
どこにカメラが? 慌てて隠れたけど、紫呉は笑っていた。
「今、口説いてんの。美人だろー」
『着物美人は反則だろー。仕事に身が入らなくね?』
「あはは。全然入らないけど、入ったことねえわ」
二人でひとしきり笑った後、すぐにまた仕事の話に戻った。
そ、そうか。荒い画面越しでは、パッと見まだ女性で誤魔化されるのか。
喋ったり動いたらバレるかな。
「終わった! 終わったからまだ帰らないでよ」
マイクを投げ捨てると、じりじりと障子の方へ下がっていた私に気づき走ってくる。
「お、っとと」
畳の上は、コードばかりだから危ないのに走ったりするから。
「気を付けてください。お仕事の邪魔になりますから私はこれで」
「ちょっと待って、本当にまって」
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