45 / 169

三日通うから 十四

「なんですか」 テーブルらしきものの上を薙ぎ払い、赤いブックカバーの小説を探して私の元へやってきた。 「これ、なんて読むの?」 「これは……」 覗き込んで、ぎょっとする。なんだこの本は。 「何?」 「魔羅です!」 「こっちは?」 「……分かりません」 「うそお、これだよ、これ」 顔の真正面に本を持ってくるので、つい手で振り払ってしまった。 本が畳の上に落ち、コードにひっかかりバウンドするとブックカバーが少し捲れた。 『白昼夢の未亡人』 その本のタイトルを見て、目眩がする。 紫呉は慌てて隠したけれど、私の目にはばっちり映っている。 わなわな震える身体は、怒っているのか呆れているのか、分からない。 「――最低ですね」 「や、官能小説ぐらい俺だって……怒った?」 「怒る、ですか。ああ、これが怒るってことですか」 よりによってそんなタイトルのモノを私に見せるから。だから怒ってしまっているのか、私は。 「食事以外では、当面会いたくないです」 「ごめ、ごめんってば。あ、お土産は?」 「いりません!」

ともだちにシェアしよう!