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三日通うから 十五
セクハラです。あんな単語をわざと言わせるとは。
大体、紫呉はあの年で落ち着きがない。
ちゃんと仕事はしているようだけど、私の前では尻尾振ってるだらしのない犬のよう。
「もう見学は終わったんですか?」
「ふん。もうしばらく食事以外では会いたくないです」
晤郎は眼鏡をかけて新聞を読んでいたけれど、私は座ると、止めていてくれた映画の再生ボタンを押してくれた。
「ふ。食事は一緒にするんですね」
「一度に片付けないと、晤郎の手間になるでしょ」
「……まあそうですけど」
何が言いたいのか、晤郎の口元がにやにやしている。
言いたいことがあれば言えばいい。でも、今の状況では何を言われても言い返してしまいそうだ。
「楓さまは怒った顔も可愛いですね」
「は?」
三十過ぎた男に、何を言ってるの?
「だろー。めっちゃ可愛いー」
「紫呉さん!」
仕事に戻れと言ったのに、また倒れ込んできた。
今度は体を捩って避けたので、盛大にテーブルに頭を叩きつけていた。
ざまあみろ、ですね。
「今度は何をしたんです?」
「楓に、わかんない官能用語を聞いてみただけ」
「そうですか。今日の紫呉の夕飯は無しでいいですね」
「なんで晤郎まで塩なの!」
額を押さえながら、キャンキャンと犬が吠えている。
躾をしていなかった私が悪いけど、夕飯抜きには概ね賛成だ。
「晤郎、夕飯はあれにしませんか。新鮮な卵を頂いたことですし、霜降り肉ですき焼き」
「ああ、いいですね。次の日のうどんも楓さまは好きですからね。ネギと大根もありますし」
「ひーどーいー」
必死で私のご機嫌を伺おうとしているのは分かるが、このままでは紫呉に振り回されてしまう。そんなのはごめんだ。
「――旦那様は」
なので、今のうちにしっかりと躾けておこう。
「旦那様は、貴方の歳で既に雲仙寺の経営に携わっていたらしいです。夫婦としては情はありませんが、仕事をされている旦那様は素敵だったので尊敬しています。が、紫呉さんは……」
ちらりと頭からつま先まで見る。
ゆるゆるのTシャツにジーンズ。
ぼさぼさの髪に、だらしない顔。
「まあ、可愛らしいですね」
ふふっと笑ってせんべいに手を伸ばす。
背負うものがあった旦那様と自由な紫呉を比べるのは違うかもしれないけど、これぐらい言ったってかまわないだろう。
「……俺のこと、ガキ扱いしすぎ」
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