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三日通うから 十七
Side:紫呉
例えば、この屋敷に咲き乱れている花で例えるとしたら。
楓は、この屋敷に望まれて土に植えられた『薔薇』
朝露に濡れて気高い香りを漂わせる。生まれて欲しかった、花。
なのに薔薇であることを伏せられて『君は藤の花だ』と告げられた。
藤の花として咲けと言われる。植えられたのは自分の意志ではない。
自分が薔薇であることを生まれた瞬間から否定された。
望まれて咲いたのに、本当に必要だったのはこの屋敷に色を付けるだけの花。
花だったら、どんな花が咲いても『藤の花』と名付けるだけ。
残ったのは、強く香る花。名前に意味はない。だから、ただ黙って咲いて、周りに花として利用される存在。
誰よりも美しく、誰よりも香り、誰よりも輝いていても、名前さえも教えてもらえていないのでは、自分が分からない。
それを仕方ないと、薔薇が諦めてただ咲いているだけなのは――許していいわけではない。
「なあ、そっちのアレ、――上手くいきそう?」
『まあ、お前が良いなら。できるよ』
パソコンの前で、椅子をくるくる回転させながら俺は笑ってしまいそうになって口を引き締めた。
俺がこれを買い占めて、更に荒れた土地を土足で走り回る。もちろん、俺は無知で若いから、知らなかったですむ。
どうせ薔薇だ戻れない土地だ。荒らしても、問題ない。肥料を巻いても、死にゆく土地。
「じゃあ、やっちゃお。俺たちの仕事ももっと大きく展開できるんじゃね」
『りょーかい』
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