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三日通うから 十八
「さんきゅー。期待してるよ」
別に晤郎に言われたからじゃない。晤郎の前で驚いたふりをしただけ。
とっくに俺だって知ってんだから。
「……楓は寝たかな」
トイレに行くふりをして楓の部屋の前を通る。
楓の部屋は、屋敷で一番日当たりのいい部屋。丸い窓から射し込む朝日も綺麗だけど、夜中に真っ暗な部屋からほわんと灯る小さな輝きも綺麗。
小さなころ、一緒に眠っていた時、夜中に目が覚めると、本を持ったまま枕に倒れ込むように眠っていた時が多々あった。
楓は夜が苦手なのかもしれない。
夜に悪夢を見るから、必死で起きて、昼間に眠っているのかも。
部屋の前を通ると、ちょうど本をめくる音がした。
するりと紙が擦れる音。小さな明かり。一人で眠る楓。
「楓―。まだ起きてるの?」
障子越しに尋ねると、中で小さく音がした。
「紫呉さんはまだ仕事ですか?」
「まあね。でも、楓切れしたから充電に来たよ」
触れもしないのに充電なんて、馬鹿みたいに聞こえるかもしれない。
けど、俺は諦めないよ。
「あのさ、楓。俺が三日通ったら、餅を渡すとするじゃん」
「受け取りません」
速攻かよ。
「それに用意するのは、こちら側でしょ」
流石、本を共にように常に傍に置いている。博識なんだよなあ。
「晤郎が用意してくれるわけないじゃん。露顕とか」
「というか、私はもう二度と結婚しませんよ」
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