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三日通うから 十九
障子一枚しか隔てていないのに、まるで要塞のようにがっちがち。
そこまで恋愛に対して消極的にならなくていいじゃん。
「俺、三日通うから」
「じゃあ、千夜一夜物語で対抗しましょうか」
「あれ、282夜しかないじゃん」
どう対抗するって言いたいんだ。
「違いますよ。千夜一夜の王様の話です。王様は奥様の不貞から、一夜だけの相手を寝室に連れ込んでは次の日には殺してしまいます。けれど、それを食い止めるために毎晩楽しい話をして、続きはまた明日って引き延ばすんですよ。……貴方が三日私の元に通うとして」
饒舌になった楓が、何を考えているのか分からない。
表情が見えない今、お互いに相手を探ろうとしても分からないってこと。
なのに楓が何を仕掛けようとしてるのか、全く見えてこないのは不気味だ。
「その会話が楽しくなかったら、私が王様のようにあなたを次の日、殺しちゃうかもしれません」
クスクスと笑う楓に、首を傾げる。
もしかして、ちょっと酔ってる?
「その王様の話って、最後どうなるの」
「千夜一夜の間に、その娘は王の子を産むんです。それで王様は自分の子を抱いて、今までの行いを悔い改めるってこと。――私と君ではこのエンディングが迎えられないでショ」
つまり三日通うと宣言するならば、話が面白くなければ、楓が暴虐な王様に変貌するわけか。
「……楓は、どんな話が三日間聞きたいの」
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