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三日通うから 二十
「……私は」
楓は少し考えてから、絹擦れの音を出した。
起き上がったのか寝転んだのか、少し動いただけなのか。
たった一枚の壁の向こう、相手が何をしているのか分からないのは不思議。
想像しただけで体が熱くなるし、見せて欲しくて悲しくなる。
不思議だ。
「考えたことがありませんでした。……適当に晤郎に選んでもらって、時間を潰すために読んでいたので。ほら、最近は飽きてドラマや映画にハマってるでしょ」
「ハマってるというか、眺めるだけの方が楽って気づいたんじゃん」
そうやって、自分の意志を無くしていくのかと思うと、今すぐ雲仙寺の人間を全てぶっ殺してしまいたくなる。
拳銃で歩きながら全員撃っていく。振り返ったら、まるで楓を苦しめていた道のように、屍が倒れているんだ。――ざまあみろ、だろ。
「そうですね……救いのない、四面楚歌で絶望的で、見た後に後味が悪いホラーの方が、佐砂糖菓子のような甘ったるい話よりは好きかもしれませんね」
「えー、意外」
「……私は」
開けられない障子の向こう、楓が笑っているような気がした。
「私は、覚めることのない悪夢の中を生きていると言い聞かせているのです。なので悪夢の中で何を見ても、夢だから。だから同じ悪夢を見て、ああ、これはやっぱり悪夢かって自分の考えを承認されたいのかも」
「楓」
「そろそろ寝ましょう。楽しみにしていますね」
おやすみさない、とぴしゃりと言われた。
これ以上は会話を続けたくないと、拒否されているのが分かる。
救いのない悪夢が好きね。
それこそ自分の悪夢を承認されたいんじゃないかなって思うよ、楓。
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