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朧月夜と蒲公英

Side:楓 次の日、また朝から大きな足音が行ったり来たりしていた。 晤郎が『うるさい』と注意するほどだ。 私は夜更かしをして小説を読んでいたので、午前中は大体眠たい。 うとうと縁側で本の続きを読んでいたら、ふわりと風に舞ってたんぽぽの綿毛が飛んできていた。 壁際に、春になるとたんぽぽは芽を出す。 晤郎は、自分が植えていない花はほぼ雑草扱いして抜く癖に蒲公英は抜かない。 それにどんな意味があるのだろうか。 あの伸ばしてだらしなく垂れさがってい藤の花同様に何か考えがあるのかもしれない。 庭に降り、蒲公英に手を伸ばした。 もう少し遠くに飛んでいきなさいと。 「すんませーん、そこの背中が綺麗なおじょーさん!」 門の向こうで大きな声で言われ大きく体が揺れた。 振り返ると、黒のストライプ柄のスーツのお兄さんがズボンのポケットに手を入れて、まるで道場破りのように偉そうに立っている。 「って、なに? あんた、女――だよな?」 「っ」 「おい、待てよ。俺はここまで宅配してやったんだぞ、ごら! てめえ、ちょっとその着物脱がさせ――」 「なにやってんだよ。こっち、こっち」 縁側に逃げて部屋の中へ隠れると、紫呉の声がして胸を撫でおろす。 「お前、あれがこの山神に嫁いだっていう未亡人か」 「なんだよそれ」 「下の割烹旅館のオーナーが言ってた。山神に16歳で嫁がされた生娘がいるとか」 「いねーよ!」 「いて。てめえ、歯を食いしばれよ」 二人の会話の内容よりも、乱暴な言葉に驚く。 なんて口調が強いのだろうか。 「楓さま、大丈夫ですか?」 「ご、ろうさん……。驚きました。ヤクザかと思いました」 「俺も存じませんが、紫呉が『即日発送』とやらで何か注文したらしいです」 「……そうですか」 この荒れた山道をよく通っれこれたものだ。 「紫呉は、裏表のない純粋な人間ですから人望もあるんでしょうね」 「は?」 「こんな山奥に引っ越しを手伝ってくれる友人や、すぐに欲しいものを届けてくれる友人に恵まれている。それは、きっと彼の人柄ですし」 自分に会いにきてくれる友人が皆無なのは仕方ないとしても、この数年会いに来たと言えば交流のない――あの子だけ。しかもお金の工面だけだ。 「……それほど大した人間でもなさそうですよ、紫呉は」 「あはは。晤郎さんは紫呉さんに厳しいから」 午前中に荷物を届けるなんて朝早くからやってきてくれたに違いない。 驚いて逃げてしまったけど、失礼な態度をとってしまった。 「あの、お客様にお茶でも出してもらってもいい?」 「了解です」 「挨拶もなくすいませんって、あ、化粧してなかったから逃げたって」 「……そこまで気にしなくていいです」

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