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朧月夜と蒲公英 二

だって私なら自分の顔を見た瞬間逃げられたらいやな気持になるし。 見た目と違って彼が気にしていたら悪いし。 でも、大人しく部屋に閉じこもって置こう。 「あ、そこのカッコイイお兄さん、トイレ迷ったんだけど」 ……早速、部屋の前にいる! 「トイレは此方です。お飲み物は、珈琲とお茶とどちらがいいですか?」 「あー。いいっすよ。気を使わなくて。でも紅茶で」 「!?」 障子の向こうに、私が知っている人間の誰よりも予測不可能な人間がいる。 これならお金を借りたくてへりくだる親戚の方がまだ、目的が分かって安心する。 「分かりました」 「ねーねー、お兄さん、名前何?」 「……」 「恋人いる? 何歳? 結婚してる? まあ俺は気にしないけど。あと、今夜暇?」 「……紅茶は冷たくて大丈夫ですか?」 「熱いの。猫舌だから、おにーさんにフウフウしてもらう」 「……」 「なあ、なあ、めっちゃ男前やん。まずは友達から」 晤郎の声が一切しなくなったのが怖い。 というか、この人から紫呉よりもポジティブな香りがする。 どちらかといえば静かで怖面の晤郎に、敬語じゃなくライトに話しかけてるなんて大物だ。 「無視すんなよー。ライン、ライン、ぱぱっと振ってよ」 「絢斗(けんと)、ナンパすんなよ! クソぐらいさっさと出して来い」 「あー? うっせ。クソやない。お前にかけるぞ」 ……野蛮人だ。私の屋敷に野蛮人が来てる。 私の全く知らない未確認生命体だ。 小さく障子を変えて覗くと、とっくに晤郎の姿はなく、小突き合いながら歩いている二人組が見えた。

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