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朧月夜と蒲公英 三
空が夕焼け色に染まると、山の雰囲気が急に変わる。
ぞっとするほど冷たく感じ、風の音が大きく冷たく屋敷に当る。
今日は、部屋に居ても時折、ヤクザのような彼の声が聞こえてきて嫌だった。
テレビの音を大きくして、聞こえないようにしていた。
すると紫呉の声も聞こえず、ソレに気づくのが遅れたのだった。
「楓―、届いたからあげるよー」
「え」
小腹が空いたので、夕飯前だったがおやつを探しに台所へ行こうとした時だ。
紫呉が重たそうに何かを脇腹に持っていた。
「それは何ですか?」
「楓のベット。部屋に置いても良い?」
「ベット……」
軽々持っているそれに興味が沸く。
首を横に振ると、紫呉は悲しそうにしつつも、使っていない客間にそれを置いた。
「天蓋つきなんだ。ちょっと待ってて」
天蓋付きで、枕元にも灯りが備え付けている。
マットを敷いて、シーツやらなにやらつけていくと、紫色の薄いカーテンの向こうにお姫様のようなベットが完成した。
「へへ。これ、俺のベットと高さが一緒でさ。並べたらキングサイズになっちゃうね、なんて」
「……わあ、本の中でしか見たことなかったです。座っても良いですか?」
「うん。この前のデディベアもあるし、これコンセント。で、枕も」
「一度に言わなくて大丈夫です」
ベットに座ると、ギシッと少しだけスプリングが軋む。
けれど寝心地が良さそうだった。
「晤郎も呼ぼう。ちょっと待ってて」
「あっ」
まだ使うとは言っていないのに、せっかちにも走り去ってしまった。
というか、今日は紫呉も甚平だったのですね。
朝から彼とこれを作ってたということは、彼を呼んだのは私のためだったのか。
……ヤクザではなくて、家具屋なのかな。
「おーい、紫呉、デディベア持ってきたぞ――っと」
「っ」
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