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朧月夜と蒲公英 四
彼と鉢合わせしてしまった。
歳は紫呉と同じぐらいだろうか。スーツの上着を脱いだ彼は、着こんでいたベストが上品で、その口調とのギャップに面食らう。
顔は一瞬で逸らしたからよく見ていないが、少し吊り上がった眼と八重歯が幼い印象だった。
「あれー? 山神に嫁いだ未亡人? 俺、年上好みなんだよね」
逃げようとしたら、手首を掴まれベットに座らされた。
「ねえ、あのあんたの召使みたいな男、めっちゃイイ男じゃん。あんたの色?」
――色?
何を言っているのか分からず、首を振る。
「えー、でも旦那死んでからずっとあんな色男とこんな山奥にいたんでショ? ヤったでしょ? 毎日毎日、ヤりまくり?」
その煩い口を叩いてやろうかと思った。否定してやろうかと思った。
けどこの人は、両家の親戚でもない。口も軽そうで頭も弱そう。
声を出して男だと気づかれたくない。
咄嗟に着物で喉仏を覆う。喋ってはばれてしまう。
「なんで無視すんの。こっち向いてよ。超いい匂いがする」
二人でベットに座ると、大きく軋む。
座っているだけだが、きっと軟弱な私なら簡単に押し倒されてしまうだろう。
……それでも声を出してはいけない。
「こっち向いてよ。ちょっと顔見るだけってば。別に取って食いやしないよ。まずは互いに服を脱いでからでしょ」
「――っ」
「まじでいい匂いがする。ちょっとさ、首筋舐めても良い? なあ、無視すんなって」
「楓―!」
「楓さまー!」
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