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朧月夜と蒲公英 五
襖を蹴り倒して二人が入ってくる。
その二人の、鬼の形相に涙が出そうなほどホッとした。
「大丈夫? 何かされた? 触られた?」
紫呉の言葉に、首を振りつつ顔を隠す。
「馬鹿かよ。こんな短時間で突っ込んでパコパコできるか」
「そんなんじゃねえよ!」
「楓さま」
晤郎に引き寄せられ、顔を見ると怒っていた。
「大丈夫ですか?」
頷く。下を見きながら思うのは、早く部屋から出たい。だけ。
「声を出しなさい!」
「――っ」
「こんな時は、ちゃんと声を出して、助けを呼びなさい!」
晤郎の声に、驚いて体が大きく揺れた。
怖い。こんな風に晤郎に怒られるのは初めてで怖かった。
「ど、怒鳴らないでくださいっ」
「そや! そんな俺が酷いことしたみたいに」
紫呉の友人が言いかけた言葉は、紫呉が頭を叩いたのか続きは聞こえてこなかった。
「声を出してよ。俺と晤郎しかいないんだし、いいんだよ、楓」
「俺がいるやん」
彼の言葉は再び消され庭に投げ捨てられた。
二人に見守られ、私は観念して晤郎の甚平の裾を掴む。
「し、紫呉さんの、親しい友人に、私が男だとばれたらッて……」
「そんなの、押し倒されて触られたらバレるって。殴っれ、殺すつもりで股間を殴っていいってば」
「逆に女の子にして差し上げればよかったんです」
「俺が今からしてくるわ」
「畑仕事用の桑等は、向こうにあります」
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