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朧月夜と蒲公英 七

「しっ。私と話してるのがばれたら、また怒られますよ」 「……あんた、男だったのか。だからあいつら、やけに過保護だと思った」 「そうなんですよ。二人は私に甘いんです」 大きな桜の木の下、彼はとてもちっぽけに見える。 暴れていたけれど、上に動いても下に動いても縄が解けなかったので、諦めて座り込んだ。 その彼が面白くて観察する。 紫呉より体格も細いし、身長も低い。外国人の血が流れているのか、白くて石像みたいにシミもなく綺麗な肌。……目も綺麗な翡翠色。髪はリーゼントみたいにまとめているけど、乱れてウエーブかかった髪が頬にかかっている。 茶色の髪、綺麗な肌、強勢をはった大きな声、でも顔は少し幼くて可愛らしい顔かもしれない。 「んだよ。じろじろ見んなよ。縄、外してくれたら、その寂しい体を慰めてやるぞ」 「……私とセックスするってことですか?」 「ああ。俺のは太いし持続性あるし、ちゃんとゴムもあるから衛生的だし!」 「……それは、私が女側ってことですよね」 紫呉も多分、そうなんだろう。 私を女のように抱きたいのだろう。 それは、少し寂しい。 「なんでそんな顔すんだよ」 「そんな、顔?」 「笑ってんなよ。嫌なら嫌って言えばいいだろ。女として扱われるのが嫌なんだろ!」 噛みつかれるかと思うほど大きく怒鳴る。八重歯が可愛いなとさえ思う私は、今夜少しおかしいのかもしれない。 「……えっとですね。私は、女として育てられて、戸籍も女なんです」 「ちんこついてるのに?」 「そう。権力と財力のおかけで、ね」 「……お前、結婚したんだろ」 「旦那様は私が18歳の時に亡くなったので、あ、旦那様には抱かれていませんよ」 「その歳で処女かよ!」 下品な言葉を投げつけられても、どうしてか不快にならない。 縛られているから怖くないおかげかもしれないけど。 「だから、今更君に抱かれる気にもならないです。誰かの肌に触れたいって――とっくに諦めてることなので」 ごめんね、と謝ると『うがーっ』と叫んで暴れだした。 どうやら縄を解こうとしているらしい。 「そんなの、おかしいだろ! 諦めんなよ! 男でもアンタは綺麗だし、声だってちょと低いけど妖艶だし、全然需要あるし!」 「需要……」 面白い言葉だなって、口元を隠して笑うと、彼は頬を染めた。 そんな可愛い表情もできるのか。 「これを外せ。今すぐ俺が抱いてやる。俺は下は18歳、上は未亡人まで老若男女かまわねえでちんこが起つ」

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