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朧月夜と蒲公英 八

「……私が立たなくても、セックスはできますもんねえ」 「ちゃんと気持ちよくしてやるって。自分勝手に腰振りたいわけじゃない」 暴れるけれど、後ろへ回り込むと、五つの結び目があった。 縄を五つ使って結んでいるようで、触ったけど硬くて私では解けそうになかった。 「解かねえと、この桜の木を折ってやる。いいのか、こんな立派な木、折ってしまうぞ」 立ち上がってぐぐっと引っ張り出した彼に、私はいいよと耳元で囁く。 「こんな桜、折れてしまって構いませんよ。旦那様が、私のためにここに来た時に植えてくださった木ですし」 「……じゃあ大切な奴じゃねえのかよ」 「……うーん。大嫌いです」 紫呉にも晤郎にも言っていなかった。なぜなら紫呉は、桜の花びらを集めて、私によくプレゼントしてくれたし、晤郎は大切に育てて花を愛でていた。 だから言えるわけなかった。 「私が生まれた時、女なら桜、男なら旺って名前にする予定だったと言ってました。桜と書いてオウでは可愛すぎるからと旺」 地面に、木の枝で漢字を書く。 「あんた、そのどっちの名前でもないじゃん」 「はい。紅葉の中に隠れてしまえって意味で、楓です」 山の中、葉っぱの中で隠れてしまえ、見えないでいい。お前は見えなくていい。 「旺って名前に今からでも変えて、戸籍も戻せるだろ」 「……その名前は弟につけられました。父に似て、借金ばかりが増える、けれど家族にかわいがられている、私の弟に」

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