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朧月夜と蒲公英 十一
Side:楓
「あら、今日は来ないと思ったのに……しぶといですね」
不意打ちで、縁側に紫呉が現われた。
彼はグルグル巻きにした絢斗さんを自室に転がしてから、髪を乾かしている私の元へ来たらしい。
彼は一泊するのか。お風呂ぐらい入れてあげたらいいのに。
「三日通うって言ったじゃやん。ってか部屋にいると思ったのに」
「あはは。襖越しに三日会話しなきゃ意味がないですもんねー」
仕方ないので、屛風を持ってきて縁側の廊下を真っ二つに隔てた。
タオルでパンパン音を立てて髪を拭いていたら、『もっと優しく乾かせよー』と文句を言ってきたのは面白い。
「で、何を話すんですか」
「楓に俺を知ってもらいたいから、どれにしようかなー」
屛風の隅から覗くと、気づいたのか微笑む。
「それは、入っていいよって合図?」
「いいえ。監視です」
どんな顔をしてるのかただ見てみたかった。
人を恋しいと思う人間の顔はどうなのかなって。
ちょっとだけ旦那様に似ていた。
晤郎を視線で追いかける時の旦那様に。
「そういや、絢斗なんだけどさ。あいつ一年だけ俺と同じ養護施設に居たんだ」
「……へえ」
「彼は九州の豪族まあ要は九州のヤクザさんと、ドイツの令嬢の子どもってことね。俺と違って勘当されてたけど孫は可愛いってちゃんと身内が引き取ったんだよ」
「……貴方も私が引き取ったでしょ」
晤郎に騙されて引き合わせられなかったら、多分会うこともなかったけど。
紫呉の母親が結婚するはずだった相手も地位ある御曹司だったらしいし。
「俺は母さんの姓に戻すのも最近でショ。まあいいけど。大学で再会した瞬間、一目で俺たち『あっ』ってなったんだ。戦友が生きてた感じ? あの養護施設、優しいおじいちゃんおばあちゃんが、定員オーバーなのにどんどん引き受けちゃうから大変でね」
「だから施設に寄付してるんですね」
「知ってたの? 雀の涙だけどね」
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