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朧月夜と蒲公英 十三
東屋まで浚ってきて何を言うかと思えば、そんなこと知ってるのに。
私がきょとんと紫呉を見つめると、眉を顰めた。
何か私の反応が気に食わなかったのだろうと理解できる。
「だから今度から俺は聞くから。楓に選択肢を広げさせる」
「例えば?」
別にそこまで私は我慢しているわけでもないのに。
紫呉は優しく育ったようだ。私がいつまでもこの屋敷でぼーっとしているのに胸が痛むのかもしれない。
「例えば――。俺と一緒にここから出るか、俺に無理やりここから脱出させられるか」
「……それ、選択肢ですか?」
どちらも私の意志が尊重されているとは言い難い。
「怖いのは分かるよ。晤郎には散々反対された。ここから出たら、楓は自分が如何に誰よりも理不尽で酷い扱いを受けていたのか気づいてしまう。知らなかった世界は、幸せに見えるかもしれない」
「……ふふ。そこまで考えてくださってたんですね」
「笑い事じゃない。笑わないで」
ぴしゃりと言われ、視線を泳がす。嬉しくて笑ったのに、なぜ駄目なの。
自分が理不尽な理由でここに居るのは分かってるし、絶望しきったあとだからこれ以上何に絶望するというのか、私には見当もつかない。
「どうしたら紫呉さんは満足ですか?」
「……俺に聞くんじゃない。楓が言って」
「……」
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